アーティスト R-指定氏 マイクロホンレビュー(SM58)

“ギタリストとギターの関係と一緒で、マイクとラッパーはやっぱり相棒だと思いますね”
WHY WE CHOOSE SHURE - Shureを選ぶ理由 -
R-指定 (ULTIMATE MC BATTLE 2012, 2013年度チャンピオン )
“ギタリストとギターの関係と一緒で、マイクとラッパーはやっぱり相棒だと思いますね”

日本最大級のMCバトル「ULTIMATE MC BATTLE」、通称UMB。2005年より始まったこの大会はこれまでに、現在はももいろクローバーZの“堂々平和宣言”の作詞を手がけるなどヒップホップ外でも活躍する鎮座DOPENESSや、日本のヒップホップ・シーンをハードな側面から牽引する般若といった優勝者を輩出。数々のラッパー同士の名勝負を生み出してきた、ラッパーとして名を上げる為の登竜門であり、シーン全体のラップ・スキルを高めてきた、権威ある大会である。

 その大会において、弱冠二十歳にして2012年に初優勝、そして2013年には二連覇を果たし、SHURE製のゴールデン・マイクを手にしたのが、現在22歳の俊英、R-指定だ。
大阪を中心に、ライヴやバトルで名を上げながら、今年ソロ・アルバム「セカンドオピニオン」をリリースし、ソロ/レコーディング・アーティストとしてもシーンにその存在を高らかに宣言するR-指定。本稿では彼のこれまでのキャリアや、フリー・スタイル・バトル、ニュー・アルバムに加え、彼自身、インタビューの中でも「この機材に合わせて、ラッパーとしてのパフォーマンス力を高めてきた」と話す、クラブやライブ・ハウスでの標準機であり、数多くのラッパーが愛機として使用し、ヒップホップ・シーンではスタンダード機であるマイク:SHURE SM58について、彼なりの使用法や使い勝手など、多面的に話を伺った。

取材・文/高木JET晋一郎
撮影/Umeda Wataru

-     まず、R指定さんのヒップホップ的なキャリアを教えて下さい。

ちょうど10年ぐらい前、中学一年生の頃に、ラジオでかかってたSOUL'd OUTとか、ポップなラップが入り口でしたね。そこから聴きはじめたんですけど、一番衝撃を受けたのはライムスターでしたね。まず、歌詞の形態が面白くて。歌謡曲やJ-POPとは取り扱ってるトピックが違うし、思想とか視点が歌詞になるのが興味深かったんですよね。

-      自分でラップをやろうと思ったのは?

ライムスターみたいに、不良じゃなくてもラップをやってる人が結構いるんだって知ってから、もしかしたら自分でも出来るかも、やってみようって思って、リリックを書き始めたんですよね。中学の時は一人二人の友達と、そういう遊びを共有してたり、フリースタイルをやったりしたんですけど、でも、全然本格的ではなくて。だけど、高校に入ってから、梅田サイファーに参加したり、コッペパンってグループを組んだり、ENTERのフリースタイル・バトルに参加したり、学校外での活動の場所が広がったんで、そこから本格的なっていきましたね。

-      学校ではあまり共有する友達はいなかったんですね。

バンドはいたけど、ラップはホントに少なかったですね。高2の文化祭で、一芸披露みたいなステージがあって、そこで一人でラップをやったんですけど、微妙な空気になりましたね、かなり(笑)。

-      (笑)。それはなぜ?

人気者だったりイケてる奴がやれば違ったんでしょうけど、アルバムでも書いてる通り、そういうタイプじゃ無い奴がいきなりラップしたんで、「誰お前?」みたいな感じで、ちょっとざわついて(笑)。

-      R-指定くんは高校の頃から、MCバトルで年上をバタバタ倒す「脅威の高校生」みたいな存在としてシーンでは注目されてたけど、学校生活では、それはあまり活かされてなかったんですね(笑)。

残念ながら(笑)。でも、そういう注目のされ方が、ダンサーとかに伝わっていって、卒業イベントでは、がっつりライヴも出来るようになって。だから、勉強とかスポーツとか、自分に自信が持てることが全然無かったんだけど、ラップは褒めて貰えるし、これなら人と対等にコミュニケーションできる、人と張り合える、そういうモノが見つかったなって思いましたね。

-      そこで自己存在を高めていったと。梅田サイファー(※)に参加した経緯は?

ちょうど高2ぐらいの時で、まだクラブに行けるような年齢でも無かったから、それで、どこかでラップ好きな奴がおる場所ないんかなって探してたら、梅田でサイファーやってて、どうもみんな普通の人達らしいと(笑)。そこから、サイファーにおる人達と友達になって、そこから、ライヴやクラブのツテが出来て現場に……って感じですね。でも、人に教えを請うたり出来たり、先輩と距離を縮めることが出来ない性格なんで、基本的に独学でしたね(笑)。

-      独学とはどのように?

ホンマに量でしたね。とにかくラップしまくって、自分で掴むっていうか。梅田サイファーも、最初に行った時、みんな何時間もラップを延々しまくってて、それがまず衝撃で。そこに自分もついて行くためにとにかくラップして、自分から入り込んでいって。そうやって、地道に、出来へんかったことが、続けて行く中で徐々に出来るようになって、っていう感じですね。だから、ラップに関しては、ずっとマイナーチェンジを続けてるって感じです。その中で、頭を柔軟にしていくっていう事を意識してますね。何かを見たら、そこから韻だったり、続ける言葉がパッと出るように、色んな事で頭の中をごちゃごちゃにしといて、頭の中を柔らかくするっていう。それがMCバトルにも活かされてますね。

-      フリースタイルの時、言葉はオートマチックに出てくるのか、考えながら出しているのか、どちらの部分が強いですか?

それもゴチャゴチャですね。相手の言葉や出方を理路整然と分析してる時もあれば、ラップしながらどんどん脱線していくんだけど、それが思わぬ良い方向に進んだり。そうやって色々です。でも、自分では会心の言葉が出たけど全然響かなかったり、逆に苦し紛れで出た韻や言葉がスゴくウケたり。だから、フリースタイルの言葉は生モノで水モノやなって思いますね。今は、会話の延長上だったり、『面白い言い合い』が出来る方向を考えてますね。ずっとサイファーやってると、韻だったり、ラップの乗せ方っていうスキル的な部分では、出尽くすんですよね。ホントに何時間もやってるから。だから、その場でウィットに富んだ返し方だったり、普段の会話のようなラップが出来ればなって。フリースタイル・セッションだと、そういう会話的なラップで相手を笑かしたり、バトルだったら、会話の延長でねじ伏せたり攻撃したりって考えてますね。

-      UMBに最初に出場したのは?

2009年ですね。ホントは2008年にも応募したんですけど外れちゃって。それで「こいつ、俺より下手なのになんで俺が出れへんねん」とか思いながらフロアで見てました(笑)。でも、2009年の時は、大阪大会のベスト8ぐらいで負けて。他のバトルではちょこちょこ勝ってたりしたんで、それは悔しかったですね。

-      そして、2012年には初優勝されますが。

それが、あんまり実感が湧かなくて、『あ、勝てたんや』って。10年/11年と全国本戦には出られたけど、どちらも一回戦負けだったんで、12年は『まずは一回戦は勝とう』って気持ちだったんですね。だけど、その気持ちのままスッと優勝できちゃったんで、逆に『あ、あれ?』ってあたふたしちゃて、めっちゃ嬉しいんやけど、どうしていいか分からんみたいな(笑)。だから13年は、ディフェンディング・チャンピオンとして再び勝てたって気持ちもあるし、アルバム「セカンドオピニオン」も制作してたから、優勝した上でアルバムもっていう、その先の道筋が見えてたんで、喜びは今回の方が強かったですね。DOTAMAさんとの決勝戦もスゴく気持ちいい戦いだったし、優勝の手応えがちゃんとあって。

(2013年 UMBグランドチャンピオンシップにて)

(2013年 UMBグランドチャンピオンシップにて)

-      そして、優勝の副賞としてSHUREからゴールデン・カスタムマイク - SM58が贈られますが、機材にこだわりは強いですか?

クラブやライヴ・ハウスではSHUREのSM58がスタンダードなんで、それに合うように、響くように、自分の声の出し方や、慣れを整えた部分はあると思うし、使い続ける中で自然とそうなっていったと思います。だから、SHURE以外のマイクだった時に、苦戦する時はありますね。

-      マイクに合う合わないでパフォーマンスは変わりますか?

だいぶ変わるし、影響は大きいですね。それは、アーティストっぽい高尚なこだわりでは無くて、自分の声が気持ち良く響くかどうかっていう、感覚的な部分で。リハーサルで声を通して、それがトラックに被って……っていう流れが、気持ち良ければやっぱり乗るし、それが気持ち良いのが、SM58ではありますね。声が通らないと、乗せようと頑張っちゃって疲れちゃったりするし。

-      マイクを使う時に意識してることは?

基本、僕はマイク・ヘッドを出す方なんですけど。クラブやライヴ・ハウスの大きさや、スピーカーの鳴り具合、セッティングによって、マイクのヘッドをどれぐらい出すかを変えるっていうのは考えますね。それは体験的にもそうだし、他のアーティストのライヴや映像を見て、「ライヴが上手い人ってどうやってマイク持ってるんやろ」って事に注目してみたら、ヘッドの出し方とか、マイクの持ち方、マイクと口との角度とか、上手い人ほど、やっぱりこだわってるなって。ヘッドに手を被せちゃう、いわゆるラッパー持ちみたいな、本来のマイクの持ち方としてはアウトな持ち方でも、それによって音がこもって低音が出やすくなったりとか、いろんな方法論があるんやなって。それを会場やスピーカーの状況によって、自分も変えた方がより良いライヴが出来るかなって思いますね。マイクの持ち方でも、その人の個性って出ますよね。

-      特にラッパーはそうですね。

「絶対やりづらいやろ、それ!」みたいな持ち方で演出してる人もおるし(笑)。でも、ギタリストとギターの関係と一緒で、マイクとラッパーはやっぱり相棒だと思いますね。音符も読めへん、楽器も弾けへんようなラッパーをアーティストたらしめてくれる、ラップをやってる印。……とは言え自分専用の機材っていうのは今まで持ってなかったんで(笑)、これからそれが持てるのは嬉しいですね。しかも58だからバッチリやなって。マイ・マイク持って、しかもそれが金色だから周りから結構ツッコまれるかも知れないけど(笑)、それも武器に出来ればって思います。

(2013年 UMBグランドチャンピオンシップにて)

(2013年 UMBグランドチャンピオンシップにて)

-      話は変わりますが、1stアルバム「セカンドオピニオン」は、ご自身のネガティヴな部分が表に出る部分も強いですね。

1stアルバムなんで、自己紹介という部分と、バトルMCとして知られてる自分のイメージを払拭したいって気持ちもあったんですよね。というのは、バトルから僕を知った人の中には、スゴい俺が、イケイケな奴だと思ってる人もいて。

-      相手をラップでねじ伏せてるのを見ると、そう思うかも知れませんね。

だから『入れ墨は入れてるんですか?』とか聞かれたり。入れてるわけあらへんやん、そんなタイプちゃうよって(笑)。だから、この作品で自分がどんな人間か分かって貰えるような、文字通り名刺代わりの作品になればって思いましたね。そこで気づいたのは、今回の、伝えたいことや根幹は、中学校の頃から変わってないし、その気持ちで作ってるなって事で。

-     その根幹とは?

「劣等感」なのなかって。根幹にある『劣等感』みたいな気持ちは変わらないなって。その感情をバトルの時みたいに攻撃に使う時もあれば、哀愁に結びつけたり、自虐だったり、笑いっていう風に、自分の中の劣等感を、色んな形で表現してると思うんですね。

-      でも、その暗さみたいな部分も、エンターテインになってますね。そして、そういったルサンチマンやイケてなさみたいな部分が、MCバトルでの優勝や、このアルバムのリリースのように、ラップで逆転したっていうメッセージに、現実としてなっているのが素敵だなって。

そういう(名声的な)部分はまだまだだと思うんで、作品の中で声高には言わなかったけど、でも、そういう気持ちはありますね。俺のような人間や、俺のような若い奴らに、未だにそういうのを引きずってる人に、向けてるって気持ちはありますね。これを聴いて貰えれば、なんで僕がバトルMCになったかっていう根本も分かって貰えるし、何がその原動力になってるかが分かって貰えるかなって。だから、自分が思われてるイメージへの回答みたいな気持ちもあるし、このアルバムを聴いて貰えれば、バトルもより楽しんで貰えると思いますね。ただ、ライヴDJをやって貰ってるDJ松永さんとのユニット:Creepy Nutsでは、もっとファニーな部分を出せればって思ってるんで、暗いだけじゃないですよ(笑)。

※ 梅田サイファー

毎週土曜日に阪急梅田駅と阪神梅田駅を繋ぐ歩道橋上で行われる、フリー・スタイル・サイファー(輪になってラップすること)。

R-指定「セカンドオピニオン」絶賛発売中!詳細はアーティストページ

 

UMB Grand Championship 2013 R-指定 vs JAG-ME
Ultimate MC Battle, Grand Championship からの一シーンです。

 

R-指定
R-指定

大阪府堺市出身のラッパー。 中1で日本語ラップと出会い、中2からリリックを書き始める。高2で足を踏み入れた梅田サイファーの影響でバトルやライブ活動を開始する。日本最高峰のMCバトルULTIMATE MC BATTLE(以下UMB)大阪大会にて4連覇を成し遂げ、2012年、2013年の全国大会UMB GRAND CHAMPIONSHIPで優勝し全国2連覇を成し遂げる。そして2014年4月、自身初となる1stアルバム【セカンドオピニオン】をリリースする。 MCバトルの戦歴からは想像できないほど内向的で卑屈、HIP-HOPとはあまりにもかけ離れたバックボーンとパーソナリティー故に生まれた強烈な劣等感を創作/表現活動の源としている。楽曲では幅広いトピックを扱い、独自の切り口から様々なアプローチを見せる。誰もが持つ負の感情を時には武器に、時には笑いに、時には哀愁にも変えてしまう多彩な歌詞世界が特徴。DJ、トラックメイカー、ダンサーと様々な顔を持つ器用な同業者が多い中、ラップという表現一つで無数の表情を見せることができる希有な存在である。 現在、「DJ松永」とのHIPHOPユニット「Creepy Nuts」としても活動中。

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