デュアルダインとは?KSM8徹底解剖

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史上初のデュアルダイヤフラム設計ダイナミックハンドヘルド型マイクロホンであるShure KSM8 デュアルダインは、ダイナミックマイクロホンの構造を根底から覆した、最新エンジニアリングの粋を集めた製品です。その重要性を理解するためには、まずShure ユニダインについてお話ししなくてはならないでしょう。

史上初のデュアルダイヤフラム設計ダイナミックハンドヘルド型マイクロホンであるShure KSM8 デュアルダインは、ダイナミックマイクロホンの構造を根底から覆した、最新エンジニアリングの粋を集めた製品です。その重要性を理解するためには、まずShure ユニダインについてお話ししなくてはならないでしょう。

 
ユニダインからデュアルダインへ

1939年、Shureは世界初の単一指向性シングル・エレメント・ダイナミック・マイクロホン、Unidyne 55を発表しました。それまで、カーディオイドの指向性を得るには無指向性エレメントを双指向性(フィギュア8)エレメントを同一のハウジングに組み合わせるというのが通常の手段でしたが、このデザインではパフォーマンスの安定性に欠け、またサイズの大型化を避けられませんでした。しかしユニダインの登場で、これらの問題がすべて解決されたのです。

もちろん他のメーカーもこのデザインを次々採用、ライブ・パフォーマンス・マイクロホンの歴史はここで大きな転換を迎えたのです。すべての単一指向性ダイナミックマイクロホンは今現在でも、Shureが1939年に確立したこの原理に基づいて製作されています。

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ユニダインの開発を推し進めたのはShureのエンジニア、ベンジャミン・バウアー氏です。バウアー氏はまず、フィードバックと不安定な特性に対応する最良の方法はシングルエレメントであると考えました。彼はまた、シングルエレメントに正面からのみ音が伝わると無指向性応答が得られ、正面と背面から音が伝わると双指向性応答が得られることを理解していました。そこで彼はマイクロホンエレメントの背面を部分的にブロックすることで無指向性と双指向性の中間にあたる応答が得られるのではと考えたのです。この研究こそが、ユニフェーズ音響システムの誕生へとつながりました。

バウアー氏のユニフェーズシステムは正面及び背面開口ポートを細かい計算に基づいてネットワーク化し、これによりマイクロホンのダイアフラムに両側から音波が届くというものでした。背面ダイアフラムに向かっていた音波はその通過のために道程が長くなるため、ここで時間差が生じます。つまり、あえてマイクの背面から音が入るように設計することで、バウアー氏はこの時間差を利用し、180度軸外音が正面と背面から完全に同時にマイクに伝わり、実質的にはダイアフラムが動かない、というシステムを作り上げたのです。そう、これこそが単一指向性ダイナミックマイクロホン誕生の瞬間です!

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なめらかなデザインの55Unidyneは、無数のパフォーマーおよび著名人とともに写真に納まり、その映り栄えする姿も含めてマイクロホンの「代名詞」となりました。エルビス・プレスリーは特にUnidyneとつながりの深いアーティストで、そのマイクを使う姿は米国郵便公社発行の切手にもなったほど。2014年に誕生75周年を向かえたユニダインは、現代の技術を採用しながら「誰もが知っているマイクロホン」として今でも高い人気を誇っています。実際、歴史上でも有名な舞台に何度も登場しているユニダインは、世界でもっとも有名なマイクロホンといえるでしょう。

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しかし、Shureのエンジニアたちはその栄誉に甘んじることなくユニダインの開発を続け、さらに優れたデザイン、完璧なパフォーマンスを求め続けたのです。

1959年、マイクロホンの側面よりも端側に話しかけるようデザインされたUnidyne IIIが、初の高品質単一指向性マイクロホンとして登場しました。これはSM57の前身であり、Shure伝統のSMシリーズの基礎ともなったマイクロホンです(つまり、Shureはボール型グリルをマイクロホンにつけた初の企業だということです)。

1964年までにShureはエアー式ショックマウントを完成。これはカートリッジ音響にきわめて複雑な構成を組み込むもので、純正のShure製品以外には搭載されていません。

1966年、SM58はその優れた音質と安定したパフォーマンスにより急速にロック音楽業界に認められる存在となります。SM58はその50年の歴史の中で進歩を重ねながら、現在でも世界でもっとも有名なボーカルマイクロホンであり続けています。そして人々が手にするそのSM58は、もちろん製造過程に多くの違いはあるものの、その真髄はUnidyne IIIなのです。つまり、今日販売されているダイナミックマイクロホンはすべて、この記事で紹介している原理に基づいて製作されているというわけです。

 
次に考えるべきことは?

シングルエレメントの単一指向性マイクロホンはフィードバックと不明瞭性を改善する分、軸外音の色付や近接効果に関してはその分犠牲となる部分がありました。

KSM8 デュアルダイン―1939年のユニダイン発表以来、マイクロホン技術におけるもっとも重大な技術開発である世界初のデュアル・ダイアフラム・ダイナミック・ハンドヘルド型マイクロホン。KSM8の技術の真髄は、2枚の極薄ダイアフラムと気流反転という世界初のカートリッジデザインにあります。これにより、近接効果のカット、比類ない軸外音遮音、そしてボーカルの明瞭さを実現し、イコライザーや処理の必要は最小限に抑えることができます。下図はKSM8と標準的なダイナミックハンドヘルド型マイクロホンのパフォーマンスを比較して表したものです。

近接効果
近接効果コントロールにより、軸上の色付けなく収音距離が拡大。ダイナミックマイクロホン史上最も精確な周波数特性が実現。

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周波数特性
下図では赤い線がKSM8をあらわしています。きわめてフラットに近い周波数特性がお分かりいただけるでしょう、特にプレゼンスピーク部分ではその特徴が明らかです。

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安定した指向性
最後のグラフでは、KSM8のパフォーマンスがいかに安定しているかを、いくつかの周波数ポイントごとにあらわしています。

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前身であるユニダインと同じく、KSM8でShureは世界に全く新しいマイクロホンを誕生させました。近接効果の抑制および軸外減衰は、ダイナミックマイクの気流反転と2枚の極薄ダイアフラム(1枚はアクティブ、もう1枚はパッシブ)によって実現しています。パッシブダイアフラムはカートリッジ音響の一部であり、近接効果の制御に絶大な効果をもたらします。アクティブフロントダイアフラムはコイルと磁極から組み立てられ、ダイナミックマイクロホンの中でもっとも正確な周波数特性を実現します。

 
このマイクは他のShureマイクロホンの代用となりえるのか?

いいえ。全てのマイクロホンにはそれぞれの用途があり、一本のマイクロホンがすべての問題解決となることはありえません。Unidyne IIIカートリッジは、その価格帯でエアー式ショックマウントを搭載したシングルダイアフラムマイクロホンとして最良の製品といえるでしょう。デュアルダインは新たなカテゴリーのカートリッジであり、上述のとおり、Unidyneの構造利点を取り入れることで多くの主要パフォーマンス範囲が改善。これにより、デュアルダインはこれらの機能が発揮される用途において、新たなパフォーマンス基準を打ち立てたといえるでしょう 。

Mumford and Sons の例
「Rock in Romaでの昨夜のステージで初めてKSM8を試したんですが、マーカスはとても気に入っていましたよ。僕も同じです。とにかくクリーンでフラットなレンポンス、高域はスムーズだし軸外の遮音はすばらしかったですよ!ツアーの途中だっていうのにマーカスはマイクを変えたがっていますよ。ルックスもいいから、すぐにでも変えてくれって言っています。」―Mumford & Sons FOH、クリス・ポーランド氏

ここでは、マーカスは安定したカーディオイド特性のおかげでより明瞭なモニターミックスができました。フラットな周波数特性に対する好みとスムーズなトップエンドもあわせ、KSM8はこの用途に完璧な選択だったというわけです。もしパフォーマーがシャープなプレゼンスピークを好むという場合であれば、SM58(またはBETA 58A)のほうが安全な選択肢でしょう。

Mumford and Sonsに続き、HozierもKSM8の安定性について感想を述べています。
「今日新しいマイクを試したんですが、みんなとにかく大喜びでしたよ。特にAndy(Hozier)は嬉しがっていましたね。ゲイン構成はBETAと同じですが3-5kレンジでずっとスムーズだし、プレゼンスがとにかくナイスでした。彼のボーカルがミックスでよく引き立つんですよ。すべての面において、ベストなマイクですね。これからAndyのメインボーカルマイクになることは間違いないでしょう。」

Hozierのボーカルを前面に出したスタイルでは、安定したフラットな周波数特性と近接効果のカットは大きな利点になります。ボーカルスタイルやジャンルによっては、近接効果を好むパフォーマーもいるでしょう(薄いボーカルに厚みを持たせたい、など)。

 
終わりに

KSM8は最新のテクノロジーを使用しダイナミックマイクロホンの性能を拡張しています。たった一本のマイクロホンがすべての用途やすべてのボーカリストのスタイルにマッチすることはありえませんが、エンジニアにとっては従来のダイナミックマイクロホンの課題の多くにKSM8は対応しています。Unidyneが1939年にフィードバックの課題に対応したように、デュアルダインはこの2016年、ダイナミック・マイクロホンの課題に応えているというわけです。マイクロホンテクノロジー、そしてその革新の歴史に新たな時代をもたらす―それこそがShureの伝統でもあります。ベンジャミン・バウアー氏も、きっと誇らしく思ってくれているはずです。