ヘッドホンを使ったマスタリング前の確認作業

Davida Rochman | 2014年1月6日

age Audio Mastering所属 スティーブ・コラオ(STEVE CORRAO)著―テネシー州ナッシュビル

少し前、Shure Notes編集部はトップシークレットエリアであるShureのTechnology Annexにおいて、ユリ・シュルマン氏にヘッドホンラインの開発に ついて詳細を聞く機会を得ました。ディスカッションでは、クリティカルリスニングやマスタリングによく使用されている密閉型のSRH940、オープン型のSRH1440SRH1840などのヘッドホン製品ラインにも触れられ、中でもSRH940については多く語られました。我々が気になっていたのは、リファレンスグレードのヘッドホンを使用することで、どのレベルで、どのような違いがでてくるのか、という点でした。

以下は彼から学んだことです。レコーディング用途において、リファレンスヘッドホンはトラックのミックスの仕上がり状態を確認するために使用されます。リファレンスヘッドホンは、エンジニアにミックスに取り込まれた全ての音を、可能な限りフラットに、そして精確に聴かせられるようにデザインされているため、リファレンスヘッドホンは、論理的な選択といえます。ワイドなサウンドステージにより、クリティカルリスナーはミックスやマスタリングでの精確な調整を行うことができます。さらに、モニター用以外にも、現在主流とされるベースを強調した消費者用ヘッドホンを好まないオーディオ愛好家にも多く愛用されています。

第一線の現場観点から話をしていただけるレコーディングエンジニアを探していたとき、スティーブ・コラオ氏の名前が挙がりました。Sage Audioを率いる彼はナッシュビルのミュージックロウ地区に居を構え、文字通りそこはRCAスタジオB(エルビス・プレスリーの「イッツ・ナウ・オア・ネヴァ―(It’s Now or Never)」、ロイ・オービソンの「オンリー・ザ・ロンリー(Only the Lonely)」がレコーディングされたスタジオ)の眼と鼻の先です。

ここで、その道のプロのスティーブが勧めるリファレンスヘッドホンの効果的な使用方法をご紹介しましょう。

ミックス内のわずかなノイズを聴き分け、取り除くには、リファレンスヘッドホンの右に出るものはありません。マスタリング後にそれらの問題が見つかることがないように取り除いておくことはきわめて重要です。高品質ヘッドホンはミックスの中の問題点を見つけるための手助けとなります。これからご紹介するコツにより、よくある問題をマスタリング作業の前に修正できると思います。

 

ノイズを取り除く

1

ノイズには様々な種類がありますが、最も一般的なのはヒスノイズとハムノイズの二つでしょう。これらのノイズは、ヘッドホンを使用すると、より聴き取りやすくなるのです。

ヒスノイズは通常、周波数スペクトラムの広い範囲に広がる高周波ノイズです。ほとんどの場合、ヒスノイズは5kHz付近から始まり、20kHz近くまで続きます。

対処法: ヒスノイズが発生しているトラックを探し出し、ノイズ低減用のハードウェアまたはソフトウェアを使用してノイズを低減します。ノイズを低減しすぎると音が不自然になってしまうことがあるので、注意します。必要な分に限ってノイズを低減するのです。トラックに録音された主要な信号や音質に影響を与えることのないよう注意しましょう。ヒスノイズが強く、影響の出ている周波数よりも主要な信号の周波数の方が低い場合には、ローパスフィルターを使用して高い周波数を除去ことが可能となります。ベースギタートラックにおけるヒスノイズの除去が、この好例といえるでしょう。

ReferencingWithHeadphones-2

ハムノイズは通常、低周波数域に発生します。多くの場合、不適切なグランド処理がその原因です。ハムノイズが残っているが、再レコーディングは不可能という場合は、次の方法でハムノイズを大幅に抑える、または取り除くことが可能です。

対処法: ハムノイズが発生しているトラックだけの状態にします。パラメトリック・イコライザーを使用し、周波数帯域の一つを高いQレシオ(10以上)になるよう設定します。これにより、ノッチフィルタが作成されます。次にその帯域のレベルを12dBまたはそれ以上にブーストし、低域のハムノイズが強まるところを周波数を変えながら探します。これにより、ハムノイズがどこにあるかが判明します。そして、ハムノイズが大幅に低減あるいは除去されるまで、帯域のレベルを12dBまたはそれ以上に減衰させます。

 

コンプレッサーの不自然さの低減

過度なコンプレッションによる典型的な現象としては「ポンピング」や「ブリージング」があります。多くの場合、これらの不自然さはミックスの中ではわずかで埋もれているために、ヘッドホンで検聴するまで識別できません。大抵はリードボーカルに強いコンプレッションを加えていることがその原因ですが、その他のコンプレッションを加えたトラックにもコンプレッサーによる不自然な音を生じることがあります。

対処法: 不自然さを感じるコンプレッションが加えられているトラックを探し出します。コンプレッションのスレッショルドあるいは比率を下げます。これで問題が解決されない場合は、遅めのアタックあるいはリリースタイムを試してみます。ミックスのコンプレッションバージョンを2、3種類作成し、コンプレッションによる不自然さが低減またはなくなるまでヘッドホンで聴き比べてみると良いでしょう。

 

リバーブおよびディレイ・エフェクト

ヘッドホンを使用すれば、全てのモニタリングシステムでも聴き取れないような僅かなディテールも聴き取ることができます。特に曲中でのエフェクト量を聴き取る場合では、リバーブテイルやディレイ/エコーのリピートを特に顕在化できます。マスタリング後には、これらのエフェクトがより一層目立ってしまうことになるため、ミックスに加えられたエフェクト量を細かく聴き取ることはとても重要なのです。

対処法: エフェクトを使用はしているものの使用楽器数が他よりも少ないというミックス部分をリスニングします。使用されているエフェクトがリバーブの場合、リバーブの量とその減衰時間を注意深くリスニングし、設定が歌に合っているかを確認します。必要に応じて調整してください。ディレイ/エコー・エフェクトについては、リピート間のタイミングとリピートの量をリスニングし、これが歌に適切かどうかを確認し、リバーブあるいはディレイ/エコー・エフェクトのいずれかが予想以上に強い場合や、歌に合っていない場合、これらは通常マスタリング後、さらに目立つことになります。マスタリングの後の音をより良いものにするためには、マスタリング前にヘッドホンを使用してリバーブやディレイ/エコーを調整することが大切なのです。

 

クリップしたトランジェントを識別する 

オーバードライブ状態のハードウェア、あるいはソフトウェアであまりにレベルが高く設定されると、トランジェントがクリップして歪みが生じることがあります。これはレコーディングおよびミックスの過程で発生する恐れがあります。特にミックスの最も音が大きくなるセクションで、歪みを識別するためにヘッドホンを使用して念入りにリスニングを行います。ほとんどの場合、わかりやすく歪んだ音というよりは、耳を疲れさせるような「きつい」音として聴こえます。

対処法: どのトラックで歪みが発生しているかを探し出します。トラックの信号経路上にある各ハードウェアおよびソフトウェアそれぞれの入力および出力レベルをチェックします。レベル設定が高くなりすぎていないか確認してください。VUメーターはピークレベルを示すことができず、また一部のPPM(ピークプログラムメーター)は不正確であることに注意が必要です。全てのレベルがメーターのクリップ表示以下であるにもかかわらず、トラックがまだ疑わしいようであれば、トラックに関係する機器の入力と出力レベルを3dBほど下げ、問題が解決するかどうかをチェックします。それでもまだ歪みが確認される場合、歪みはレコーディング中に発生したものと考えられます。この場合はイコライザーを使用して、歪みがもっとも顕著な周波数を下げます。これにより歪みを隠すことはできますが、歪みを完全に取り除くにはトラックを再レコーディングする必要があります。

 

ポップノイズおよびクリック音を識別する
ReferencingWithHeadphones-3

一般的に、ポップまたはクリック音は不適切な編集をしたときに発生します。例えば、オーディオ部分にフェードを加えずにカットした場合などです。また、レコーディング中に機器の操作を行うことによって発生する場合もあります。ヘッドホンを使用すれば、微妙なポップあるいはクリック音を聴き取ることができます。

対処法:

  1. ポップあるいはクリック音がフェードが行われていないことで発生している場合は、その部分にフェードを加えます。5~10ミリ秒の短いフェードは、ほとんどの場合聴き取ることはできません。レコーディングしたトラックにポップまたはクリック音がある場合、これを消去し、この部分の前後にフェードを加えます。
  2. 多くのDAWはドローツール(ペンシルツール)を備えていますので、これを使用してポップ/クリック音の発生場所の波形を修正することができます。ほとんどのドローツールは既存の波形を上書きするため、セッションを次に読み込んだ際にこれを元の波形に戻すことはほぼ不可能です。ドローツールを使用する前に、トラックのコピーを作成しておくようお勧めします。

 

低周波数共鳴を削除する
ReferencingWithHeadphones-4

ミックスに含まれる低周波数の量を判断するには困難を極めます。低周波数の波長は長く、そのためコントロールが難しくなるのです。多くの場合、良くデザインされた音響空間でも同様です。大抵、トラック上の低周波数が高まったり共鳴を生じるのはハイパスフィルタが入っていないためです。高品質のヘッドホンなら、ミックス内にある低周波数の量の判断に役立つでしょう。

対処法: いずれかのトラックに過度の低周波数が存在していないどうか、入念にリスニングします。確認された場合は、ハイパスフィルタを使用してこれを取り除きます。それぞれの楽器やボーカルにはハーモニクスが含まれているため、不要な周波数のみを取り除くように注意してください。多くの場合、低域のハーモニクスはトラックのサウンドにパワーを加えます。より低く重要なハーモニクスを失わないよう、ハイパスフィルタを適用したらトラックを30秒以上リスニングします。続いて、フィルタを外し、もう一度30秒以上リスニングします。これにより、フィルタリングすべき低周波数の適切量が判断できます。

 

なめらかなフェードを生み出す
ReferencingWithHeadphones-5

ヘッドホンは、フェードインやフェードアウトの作成の際にも役立ちます。フェードアウトを使用してトラックの終りに向けてゆっくりとレベルを下げていくのは一般的ですが、この場合、ヘッドホンを使用することで、フェードアウトが完了する前で音楽の音が聴こえなくなっていることを確認することができます。また別の一般的なフェードインやフェードアウトの使用法としては、レコーディング過程において発生したノイズを隠す用途が挙げられます。

対処法: 対象のフェードインまたはフェードアウトを入念にリスニングします。自然にフェードアウトしているでしょうか?自然な音に聴こえない場合は、フェードカーブまたはフェードの長さを調整します。隠れたノイズが懸念される場合は、ノイズが低減されるまで、あるいは聴こえなくなるまでフェードカーブまたはフェードの長さを調整してください。一般的に使用されるフェードカーブは、対数カーブです。これは、私たちの耳のサウンドレベルへの反応に非常に良く似ています。

サウンドのわずかな欠点の検出において、ヘッドホンはきわめて有用なツールであり、最終ミックスのリファレンスにおいて重要な役割を果たします。Shureのリファレンス・スタジオ・ヘッドホンSRH940のような良質なヘッドホンは、マスタリング前の、洗練されたミックス作成に貢献します。

本記事がマスタリング前のリファレンスヘッドホン使用のヒントになれば幸いです。

ReferencingWithHeadphones-7

 

ReferencingWithHeadphones-6

スティーブ・コラオ(STEVE CORRAO):テネシー州ナッシュビルのマスタリング・エンジニアで、Sage Audioの所有者および経営者。これまでに、Steel Magnoliaのカントリー・シンガーであるミーガン・リンジーからAllman Brothersのブルース・ギタリストであるデレク・トラックスまで、多くのアーティストの作品制作に参加している。ベルモント大学ではオーディオ・エンジニアリングの学位を取得。きわめて精確な仕事ぶりで知られ、従来のテクニックと現代のテクニックを組み合わせながら、アーティストのために珠玉のマスターを作成している。

Sage Audioのページもぜひご覧ください。「ホームスタジオモニターの選択 」から 「医療費負担適正化法がミュージシャンに与える影響」まで、幅広い情報をお伝えするSage Audioのマスタリング・ブログは必見です。

 

Davida Rochman

1979 年よりShureに入社した Davida Rochmanはスピーチコミュニケーションの学位を取得しており、マイクに向かって喋るのではなくマイクのマーケティングを行うという大学卒業後初の仕 事が、そのまま生涯のキャリアとなるとは夢にも思っていなかったそう。現在、Davidaはコミュニケーションマネージャーとして、広報からソーシャルメ ディア、コンテンツ開発、スポンサーシップまで様々な活動を担当しています。