アレクザンダー・デュヴェルに学ぶ民族楽器のマイキング

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アレクザンダー・デュヴェルに学ぶ民族楽器のマイキング

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有名な民族楽器(そしてそのマイキング方法)について学ぶべく、ここでは20年以上にわたり多数の民族楽器について習得を重ね、その収集家としても知られるアレクザンダー・デュヴェル(Alexander Duvel)氏にお話を伺いました。

世界にロックンロールの文化を広めたのはアメリカですが、その他多くの国々の文化もまた、音楽の歴史に大きく貢献しています。有名な民族楽器(そしてそのマイキング方法)について学ぶべく、ここでは20年以上にわたり多数の民族楽器について習得を重ね、その収集家としても知られるアレクザンダー・デュヴェル(Alexander Duvel)氏にお話を伺いました。

すべては彼がルーズベルト大学のシカゴ音楽カレッジ(Chicago Musical College)在籍中に、学部が誇るレコードコレクションに強い興味を持ったことから始まりました。シカゴでも有数の民族楽器コレクション(ジャンベ、ディジェリドゥ、バラライカ、カホンなど)を誇る数々のミュージックストアでのギグへとつながり、ギグを続けていく中で彼の評判は高まっていきます。シカゴのCinespaceフィルムスタジオにおける最近のイベントでフリートウッド・マックがシタール奏者を必要とした際にも、音楽ディレクターがすぐにアレクザンダーに白羽の矢を立てたほどです。

今回、アレクザンダーが彼自身のショップWorlds of Music Chicagoを開く準備に追われる中で話を聞くことができました。Shureパフォーマンスリスニングセンター(以下PLC)での彼との出会いは素晴らしいもので、チケットすらいらなかったことはまさに幸運でした。

 

民族楽器奏者 アレクザンダー・ドゥヴェル

 

アレクザンダーは楽器、音楽的技能、そしていくつかのお気に入りの楽器について、マイキングのヒントを語ってくれました。またその中で、民族音楽学についてもかいつまんで教えてくれました。その内容はここでもご紹介しています。

ShureからKSM137 カーディオイドコンデンサーマイクが用意されました。その理由は、PLCマネージャーであるディーン・ジャヴァラス(Dean Giavaras)曰く、「精確な楽器用マイクで、どの楽器にでも使いやすく、すばらしい音を再現でき、周波数全域でほぼフラットな周波数応答とカーディオイド極性を発揮するから」というシンプルなもの。PLCでディーンと協働し、またS.N.Shureシアターにも属するトラヴィス・ドゥフィールド(Travis Duffield)もこれに賛同し、「マイクを向けた音源ならば、何であっても、そのままの音を捉えてくれる、まるでスイス・アーミーナイフのようなマイク。どんな音源にも対応できる万能ツールだ。」と語っています。

 

タブラ

原産国:インド

歴史:古代芸術を紐解くと、タブラのような打楽器はインドで少なくとも2500年以上前から演奏されていたことがわかります。現代のタブラーの演奏技法は少なくともここ500~800年間で育まれ、守られてきたものです。

現代音楽における例:タブラを取り入れた人気曲としては、ビートルズの楽曲がいまだに一番有名でしょう。マイルス・デイビスもその独特のサウンドを彼のエレクトリック・ジャズの大人数アンサンブルに取り入れています。クリント・イーストウッドの代表主演作のひとつ「ダーティ・ハリー」のサウンドトラックにも、その魅力はあふれています。

トーンの質:ドラム1台では、ベルのような、センタードなピッチとトーンです。ベースドラムは深く鈍い音がしますが、専門家の手にかかればきわめて多様な音を生み出すことが可能です。

マイキングにおける課題:タブラはどちらかといえば音量の低い楽器のため、クロースマイクで音を捉える必要があります。また音場がとても幅広い楽器です。

 

tabla

マイキングのテクニック:KSM137を2本、ドラムヘッドから7.5 – 10cm離れた場所に配置し、マイク同士が遮音するように角度をつけます。

 

バンスリ

原産国:南アジア、インド

歴史:バンスリはきわめて簡単に作れる楽器で、竹1本とそれに穴をつけるだけで完成します。そのため、バンスリは世界でも最も古い歴史を持つ楽器の一つなのです。何千年もの間ありとあらゆる種類のアンサンブルで使用され、ヒンズー教の神々の一人クリシュナが持つ笛としても知られています。過去数百年の間に名だたるソリストたちが使用したことで、クラシカルなコンサートステージでも見られるようになりました。

クラシック音楽における例:西洋クラシック奏者のリオン・リーファーなどが西洋のフルートとインドの古代フルートの伝統の橋渡しをしています。

トーンの質:突き抜けるような高音から低くささやくような低イオンまで、とてもメロディアスな楽器です。

マイキングにおける課題:バンスリのような木管フルートには通常吹き口と唇の正面にマイクを配置しますが、息の吹きかけがノイズを起こさないようポップフィルターを使用する必要があります。

 

bansuri

マイキングのテクニック:KSM137を吹き口の10 – 12.5 cm上に配置、吹き口に向けて下向きに角度をつけて息のノイズを防ぎます。

 

ディルルバ

原産国:インド

歴史:ディルルバはシーク派の人々が寺院での音楽演奏に主に使用している楽器です。元は2つの楽器、タウスエスラジから発展して生まれ、現在の形になってからまだ200年ほどしかたっていません。

現代音楽における例:ビートルズの「Within You Without You」のメロディ、そしてソロ部分はすべてディルルバの演奏によるものです。

トーンの質:弓で弾くディルルバはとてもメロディアスで、弓の動きによって、ささやくような音質がわずかに加わります。ドローン弦が使われることは稀で、音に色合いを加えるために時折使用されます。

マイキングにおける課題:ディルルバの音は弱いものですが、音場はとても豊かです。これを捉えるには1本のマイクでは難しいでしょう。ステレオマイクセットが最適です。

 

dilruba

マイキングのテクニック:KSM137をブリッジと弓の12.5 – 15.3 cm上に配置します。

 

シタール

原産国:インド

歴史:シタールは何百年にも渡って発展を続けてきた楽器で、紀元1000年程からイスラムおよびヒンドゥスタニの伝統音楽家たち、そしてスーフィズム信奉者たちの音楽的アイデアが徐々に結びついた結果とも言える存在です。現代の形式もまだ発展を続けてはいますが、そのサイズは標準化されています。そのため、その生産と認知度はインドのみならず世界中に広がっています。

現代音楽における例:ビートルズの「Norwegian Wood」オリジナル版ではシタールがふんだんに使用されています。

トーンの質:シタールのトーンは世界でもっとも独特なトーンのひとつで、その理由は空洞の構造、大きくフラットなブリッジ、そして共鳴弦の魔法的ともいえる反応にあります。これらが一つに合わさって、シタールのあの独特な響きが生まれるというわけです。

マイキングにおける課題:シタールの音は小さく、周りの空気をかき乱すことはほとんどありません。マイクはブリッジの正面にできるだけ近づけて配置してください。

 

sitar

マイキングのテクニック:KSM137マイク2本を18 – 20 cm離して、角度をつけて楽器本体に向けます。一本は高音用としてネックに向け、もう一本は低音用としてブリッジに向けます。

 

ジャンベ

原産国:西アフリカ

歴史:ジャンベは西アフリカで千年に渡って愛されてきた楽器です。マンディンカの人々、特に「ヌム」と呼ばれる鍛冶屋により創作されたこの楽器は伝統的には村の日常的な習慣、たとえば収穫の準備や子供の誕生などに合わせて演奏されています。今日、ジャンベは年代や技術レベルにかかわらず、あらゆるハンドドラマーの手によって演奏されています。

現代音楽における例:ポール・サイモンの「Graceland」のレコーディングで多用されているジャンベは、ピーター・ガブリエルの90年代の楽曲でも使用されています。

トーンの質:ハンド・パーカッション楽器としては最も音量の高い楽器のひとつであるジャンベは、きわめてよく響く低いベースノートを持ち、ベテラン演奏者の手にかかれば、ぱちぱちと鳴る複雑な高トーンまで柔軟に生み出すことができます。伝統的なテクニックとしては手のひら全体を使い、非常に速いポリリズムを打ち出します。

マイキングにおける課題:ジャンベはきわめて敏感で音量の高い楽器で、非常に広範な周波数が特徴です。クロース(低音量のみ)、ディスタンス、あるいはステレオマイクでさまざまなトーンバランスを得ることができます。

 

djembe

マイキングのテクニック:KSM137マイク2本:1本をドラムヘッドの上部5 – 10 cmに配置、40-60度の角度でドラムの音を捉え、2本目は床から5センチほどに配置、ドラム底部の開口部に直接向けます。

 

カホン

原産国:アメリカ大陸

歴史:カホンの演奏は、アフリカ人奴隷売買の歴史の産物です。奴隷となった人々はドラムを作ったり古い習慣を行うのを禁じられていたため、廃棄された木製の荷台を使ってリズムだけを演奏していました。時とともにこれが独特な演奏スタイルを生み、現在ではカホンの認知度は高まり、フラメンコ、ジャズ、世界民謡、アコースティック・ロックにまで使用されています。

現代音楽における例:カホンはアフロ・ペルーヴィアンの伝統的音楽を取り入れたセザリア・エヴォラの作品で用いられています。

トーンの質:カホンはただの木の箱から作られていることもあれば、スネア、ベルなどの反響要素を持つ楽器と組み合わされていることもあります。基本となるサウンドは「ドン」というプレーンな低音と「パン」という高いエッジのトーンです。音は長く響かないため、補強にはスネア・エフェクトを使用します。

マイキングにおける課題:フロントでのマイキングが重要です。サウンドをフルに捉えるために、マイクはできる限り近づけて配置します。開口部から生まれるサウンドはきわめてフォーカスされており、マイクに大きな圧力を与えることから、背面へのマイキングには注意が必要です。

 

cajon

マイキングのテクニック:KSM137マイク2本:センターに1本、15 – 18 cm離れたフロントで少し角度をつけ、2本目は背面でサウンドホールの中に配置します。これでトーンの「うなり」を抑えることができます。

 

次のステップは?

マイクをオフにし、楽器をすべて片付け、私たちの世界を広げてくれた数時間のセッションは終了。私たちはみなローディと一緒に、風が吹きすさぶシカゴ郊外でアレクザンダーが楽器を機材車に乗せるのを手伝いながら、今日得た知識は氷山の一角にすら満たないのだということを感じていました。

次に向かうべきはどこなのでしょうか?そんなとき、誰かがクレズマー系(東欧、バルカン半島などの民謡をルーツに持つ音楽ジャンル)バンドのマイキングはどうかと提案してくれました。なるほど、いいアイデアです。

いわゆる「普通」以上のマイキングテクニックに興味がある皆さん、ぜひともご意見をお聞かせください。