KEMURI コバヤシケン氏(Sax)&石川嘉久氏(エンジニア)インタビュー

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PSM300イヤモニとKSM8の導入で変化したライブの音作り

PSM300イヤモニとKSM8の導入で変化したライブの音作り

 

取材・文・写真(機材):伊藤大輔

 

結成から20年を越えるキャリアを持ち、近年は若い世代からも注目を集めるスカコアシーンのご意見番、KEMURI。彼らの卓越したパフォーマンスをサポートするライブ機材に、ダイナミックマイクのSHURE KSM8、ワイヤレス・インイヤー・モニターシステムのPSM300が導入された。マイク類を一新したのはスカバンドの要であるホーンセクション。これまでトロンボーン、トランペット、サックスの3管をBETA 58Aで収音していたが、そのうちトロンボーン、サックスの2管をKSM8へと変更。モニターもPSM300を用いたワイヤレスシステムへ更新した。これらの機材を導入した経緯と使用感について、バンドのサックスを務めるコバヤシケンと、PAエンジニアの石川嘉久氏に話をきいた。

KEMURIのライブステージのセッティングに関しては以前、同ブログに掲載した石川氏へのインタビューにも詳しいが、モニターに関しては基本的に全員がウェッジモニターを使っていた。「KEMURIはステージ上で大きな音が鳴っていないとノレないってバンド」とコバヤシは語る。ワイヤレスモニターを使ったバンドとステージで共演したときに、ステージ上の静かな環境に驚いたことをきっかけに興味は持ったものの、KEMURIの魅力でもある激しいステージングで普段はライブ中に身体に何も付けないようにしているため、イヤモニの導入に戸惑ったという。

「たまに掛けているメガネも飛んでっちゃうくらいだから、イヤモニを使ったところで1曲目で壊しちゃうんじゃないかって。ですから、エンジニアの石川さんにイヤモニを薦められたとき"自分には合わない"って断ったんです。でも、そのあとに須賀裕之(trombone)と河村光博(trumpet)がイヤモニを使って、僕だけがウェッジでモニターするライブが数本あったんですが、そのときに2人の演奏のパフォーマンスが向上しているような気がしたんです。それで、やっぱり一度試してみるかと思ったんです」

 

ウェッジでのモニターに慣れた耳には、イヤモニを用いて演奏すると、ときには違和感を覚えることもある。だが、コバヤシはイヤモニを試した早い段階で、自身の理想のモニタリング環境に辿り着いたようだ。

「ウェッジでモニターしていたときから自分の音以外は返していませんでしたが、自分が思う理想のモニターバランスと比べると、他の楽器の音が大きく干渉していて、これはしょうがないものだと思っていたんです。でも、イヤホンを付けた瞬間にその問題が解決したというか、自分が理想としていた他の楽器のバランスが得られたんです。それに加えて自分の音の返し具合と、他の2本の管楽器も欲しいバランスで聴けるので、こんなに良い環境が得られるんだって、驚きました」

理想のモニターバランスはもちろんだが、先述したようにコバヤシがイヤモニを付けた2人の管楽器の演奏が向上したと感じたのには、もうひとつ、管楽器ならではの特性があると言う。

「管楽器ってボーカルに近い感覚があって、周りで大きな音が鳴っている環境だと、知らずに声を張り上げてしまうと同じように、オーバーブロウしてしまう傾向があるんです。それによってピッチコントロールやフィンガリング、ダンギングのミスが起きやすくなるなって思っていて。そのへんもイヤモニをすることで、少し冷静に演奏をコントロールできるというか。例えるなら体操選手が全力疾走よりも少しリラックスした力で演技したほうが100点の演技が出やすい……という感覚が、イヤモニを付けることによって得られたと思います」

コバヤシのモニターサウンドはワンミックスがモノラルで送られ、音量はプレイヤー側で調整、モニターバランスに関してはプレイヤー側で変更することはほぼないという。PSM300を用いた際のレイテンシーに関しては「上位機種のPSM1000、PSM900と比較してもほとんど変わらないですし、機械的なレイテンシーはほぼゼロといっていいです」と、石川氏も太鼓判を押す。

KEMURIのホーンセクションが収音にクリップマイクを使用しないのは、楽器側からのダイナミックマイクへの独特のアプローチがあるのが、ひとつの理由であると言う。今回イヤモニシステムに加えてKSM8を導入することで、そのアプローチ方法に変化はあったのだろうか。「BETA 58Aはマイクに楽器を近づけると音が変わるので、マイクへの距離で音色の変化や、強弱を付けたりしていたのですが、KSM8に替えたことでマイクと楽器の距離による音量差が減った気がします。あと、楽器を離しても音がやせないからか、モニターしていてもパワフルな印象があるので、力まずに吹けます」とコバヤシは語るが、その点については石川氏が補足する。

「BETA 58Aだとハイがギラつく傾向がありました。(コバヤシ)ケンさんはベルをマイクに近づけるので、乱反射の影響もあったと思うんです。でも、KSM8だとマイクに楽器を近づけたり、遠ざけたときに、音質の変化がほとんどなくて音量だけが変化するようになりました」

「KSM8のおかげでモニターもしやすくなったと思います。僕は高域がしゃりしゃりし過ぎていると、他の管楽器の混ざったときに自分の音が取りづらくなる。でも、KSM8は高域がそれほど出ている印象はないものの、アタックや音の切れ際がはっきり分かるようになりました。BETA 58Aと比較して音が早いせいか、リズムやピッチが把握しやすくなったと思います」(コバヤシ)

エンジニアの目線でKSM8に替えたことによるメリットはどういった部分に表れたのだろう?KEMURIのステージではホーンセクションがステージ手前ではなく中央に位置するため、さまざまな楽器のカブリの影響を受けやすい。そのあたりの改善点について石川氏が説明する。

「KSM8はとにかくカブリが綺麗なので、何も気にせずに音を出せるようになりました。これまではホーンのマイクにドラムのシンバルがカブったり、あとはウェッジの影響もあって、1本のマイクごとに細かくEQで切ったりもしていましたが、そういった問題がすべて解消されたので、3本のホーン隊を1つのサウンドで捉えることができました。もちろん同じタイミングでイヤモニにしたというのも大きいですが、おかげで今はステージ内の音のバランスはかなり良くなったと思います。音質的には収音した音がそのまま出てくれるという印象ですね。あとカーディオイドモデルですが、ゲインもしっかり稼げるのは素晴らしいですね」

「KSM8はエレクトリック楽器のアコースティック楽器が混在するKEMURIのバンドサウンドに溶け込みやすい気がします。サックスの音に関してもそういう印象があります」と、好印象を持つコバヤシ。KSM8に加えてPSM300によるワイヤレスシステムにより、さらに演奏に集中できるステージ環境が得られたと言っても過言ではないだろう。今後、これらの機材がKEMURIのライブサウンドとパフォーマンスのどれだけグレードアップさせてくれるのか、大いに期待したい。


コバヤシケン(Sax)


 

須賀裕之(Trombone)