Shureアーカイブ:99モデル ラジオモジュレーター

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Shure社史編纂ディレクターマイケル・ペターセンは、彼のお気に入りのアーカイブ宝物の背景にある物語を紹介してくれました。

Shureアーカイブの誇る何千にもおよぶ製品について、それぞれの持つ歴史の重みは価格をつけられるようなものではなく、いったいどれが最も貴重かという順序付けは不可能なのですが、このシリーズではいくつかの素晴らしい品を私個人が選んでご紹介していきたいと思います。今回取り上げるのは99モデル ラジオモジュレーターです。

 
Shure社史編纂ディレクター、マイケル・ピーターセン

1976年以来Shureのセールスチームから製品マネジメント、アプリケーション・エンジニアまで務めてきた私ですが、音楽のパフォーマンスとその歴史は常に情熱を感じてきた領域でした。そして2016年、Shure社長兼最高経営責任者(CEO)の Christine Schyvinckが社史編纂担当者の必要を決定したとき、この世界がひとつとなって私の目の前に開かれたのです。社長が私に就任する気があるかと尋ねてくれた時、私は二つ返事で受諾しました。

実は私が最初にShureの歴史を記録する作業に携わったのは1995年のことです。2000年のShure創立75周年を前に、私は社のこれまでの歴史を振り返る本をまとめないかと提案しました。結局それは、雑然とした小さな保管庫の中にあったもので大半が編集されました。

現在、Shureアーカイブには専用スペースが用意され、社の上級司書及びアーカイブ担当のジュリー・スナイダー氏がコレクションの管理を行っており、彼女と共に私はShure夫妻が愛した歴史的な品の数々を保管しているというわけです。

「すべてのラジオセットはPAシステムである」
99モデル ラジオモジュレーター

 

99モデル ラジオモジュレーターとShure33モデル 2ボタンマイクロホン

1933年、99モデル ラジオモジュレーターがShure製品カタログに最初で最後のお目見えをします。「1,001通りの使い道」と謳われたモジュレーターは、あらゆるAMラジオセットを「効果的かつ安価なPAシステム」へと変換できるものでした。Shure33モデル 2ボタンマイクロホンと併用することでモジュレーターのセットアップは極めて簡潔になり、デバイスに接続、マイクに接続、2本のワイヤーをラジオセットのアンテナ端末とグランド端末に接続、そしてラジオを「ダイヤルのほぼ中央」にチューニングすれば完了というものでした。これでモジュレーターのスイッチを入れさえすれば、ラジオがPAシステムに早変わりするというわけです。

 

99モデル 販売シート

1930年半ばまでに、アメリカ国民の2/3がラジオセットを所有していました。Shureがモジュレーターを発売した年は、約6千万人のアメリカ国民がフランクリン・ルーズベルト大統領初の「炉辺談話」にチャンネルを合わせた年でもあります。Shureは学校、教会、家庭での娯楽、地域のクラブや集会、店先でのデモンストレーション、ラジオオーディションなど、モジュレーターの用途に数々の可能性を見出しましたが、

大恐慌の影響もあったのか、その後モジュレーターがShureのカタログに登場することはありませんでした。

また戦時中には安価なPAシステムが数多く市場に溢れ、モジュレーターのような金属製品は軍備使用として回収されていきました。私たちがオンラインオークションで入手したモジュレーターは、唯一残された最後の逸品と思われます。

SM57またはSM58が一本生まれるごとに、日の目を見なかった他の製品があったといっても過言ではありません。新しい技術に追い越されてしまったものもあれば、モジュレーターのように時代の先を行き過ぎていたものもあったのです。1920年代後半まで遡るShure製品カタログのコレクションがなければ、このように興味深くも失敗に終わってしまったShure製品の数々の物語が語られることは二度となかったことでしょう。

私たちは歴史的なShure製品をアーカイブに加え続けるため、常に目を配っています。オークションサイトに限らず、地下室やガレージを掃除していたら古いShure製品が出てきたなどという方々からのお知らせが、私たちのコレクションの元になることもあります。もし読者の皆さんにもこのようなことが起きたら、ぜひコメント欄にご記入ください。あなたの一報が、もしかしたらShureアーカイブの次の伝説的発見につながるかもしれません。