エキスパートより:夏の音楽フェスでプレイ&サポートするために

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今回お話を伺った専門家は、Cain Hogsed氏(Jason IsbellのFOHエンジニア担当)とZito氏(OneRepublicのプロダクションマネージャー)です。彼らがツアーを1本終えて、多忙な夏のフェスシーズンに入る準備をしているところにお邪魔しました。両者共にミックス卓のエキスパートで、リンカーンセンターやニューオーリンズジャズ&ヘリテッジフェスティバルの熱狂の坩堝の中で、フェスのステージにおける何百という課題に向き合ってきた経験を積んでいます。

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Zito氏のマイク

 

夏フェスがなければ夏は始まりません。今でこそ夏の代名詞といえる夏フェスも、約60年以上も前のニューポートジャズフェスティバルがその礎とならなければ、存在し得なかったものなのです。

真の歴史家であれば、フェスティバルというものの起源を紀元前6世紀のギリシャにまで遡ることでしょう。ダンサー、シンガー、ミュージシャンたちが競い合った(どちらかというとバンド・コンテストのような)ピューティア大祭です。しかし歴史家以外の私たちにとっては、ミュージックフェスティバルといえばコーチェラ、ロラパルーザ、ピッチフォークなどといった、多数のバンドが登場する野外音楽イベントが思い浮かぶはずです。

ここでは、このようなフェスティバルにおいて、クルーであってもパフォーマーであっても、ヘッドライナーのためにサウンドチェックが準備され、自分のステージ上の準備時間は15分しかないというこの経験を最大限に活用し、そしてどのようにこの瞬間に向けてその日、あるいはそれまでの数日の準備をするかについて、ぜひ学びたいと思います。

今回お話を伺った専門家は、Cain Hogsed(Jason IsbellのFOHエンジニア担当)とZito(OneRepublicのプロダクションマネージャー)です。彼らがツアーを1本終えて、多忙な夏のフェスシーズンに入る準備をしているところにお邪魔しました。両者共にミックス卓のエキスパートで、リンカーンセンターやニューオーリンズジャズ&ヘリテッジフェスティバルの熱狂の坩堝の中で、フェスのステージにおける何百という課題に向き合ってきた経験を積んでいます。

 

誰でもインビテーションは欲しいもの

Cain氏やZito氏のようなプロがツアーして廻るのは、すでに名を成したビッグアーティスト達でしょう。しかしまだまだ発展途上のミュージシャンたちにとっては、ミュージックフェスティバルはきわめてユニークなチャンスをもたらしてくれます。毎年文字通り何百というフェスティバルが開催されていますが、その人気は有名バンドの出演というだけではなく、コンサート2~3回分のチケット料金で多数のバンドを観られるということから成り立っています。プロモーターたちはグッズの売り上げなどで利益を上げ、ファンたちは数々のビッグアーティストとあわせて新進アーティストたちを観る機会にも恵まれるわけです。

たとえばあなたがアーティストかまたはバンドのメンバーだとしましょう。ボナルー・フェスティバルのディレクターから電話はもらえなくても、地元で有名であれば、その地域の音楽フェスでメディアの注目が集まるような、かなり人気の高いライブ枠にも出場できる可能性もあるでしょう。Markato Musicianのアーティストマネージャーを務めるDarren Gallop氏の言うとおり、「フェスティバルの規模が大きいほど、競争率は高く」なります。たった25しかないパフォーマンス枠に対し、中規模のフェスティバルでも何千という応募が送られてくるというわけです。

 

フェス参加を目指すにあたり
  1. 地元からスタートすること。聴いてくれるお客さんを増やすことがゴールです。無料での出演も、はじめのうちは喜んで受けましょう。
  1. 目立つこと。ショーのクォリティを大切に。地域のフェスでより多くの人の前で演奏することは、自分のパフォーマンスの向上につながります。
  1. EPKを用意すること―プロ撮影のバンド写真、プロフィール、音楽およびビデオへのリンク(できる限りライブのもの)を含めた電子プレスキット(Electronic Press Kit)を用意しましょう。自分たちに好意的なメディア記事(地元や地域のメディア媒体によるコンサートレビューなど)をお忘れなく。もちろん記事は大きければ大きいほど役立ちます。
  1. ソーシャルメディアへの露出を増やすこと。フェスティバルのディレクターたちは、あなたのファンベースと、あなたがファンとどのように交流するのかを見定める方法を探しているものです。
  1. 前もって計画すること。ミュージックフェスティバルは年ごとにブッキングされます。つまり、春と夏のイベントのレビュープロセスはその前の秋から始まっているということです。

ただ、2日間の地域の音楽フェスの枠を獲得することと、有名な音楽フェスティバルの新人アーティストステージを10バンドでシェアするのとはまったく異なります。このような経験の違いについて、サウンドエンジニアの視点からお話を伺いました。

 

ライブの前にはいったい何が起きているの?

Cain Hogsed(以下C)ツアーマネージャーが用意するプロセスがありますが、これはほとんどの場合事前にしっかり計画され、書類になっています。プロダクションマネージャーもツアーに参加していれば、この人も関わってきますね。彼らが、ステージ上のどこに何があるべきなのかがマップされているステージプロットを用意します。このプロットにはすべての詳細が含まれていて、私たちの機材、ニーズのすべて、すべてのチャンネルとミックスに必要なすべてを含めた入力リストも入っています。

通常は、私たちの担当するバンドの前のバンドが始まったときに、機材をバックステージに運び込んでセットアップを始めます。これで私たちの番が来たときには、すべての準備ができているというわけです。たいていの場合、バンドは本番近くになるまで、グリーンルームやバックステージの休憩場所、または自分たちのバスで待機しているものです。

 

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作業中のCain氏

 

現場入りをする時に最初にやるべき事とは?

C: 自分がツアーマネージャーなら、まずフェスのスタッフとコンタクトを取りますね。フェスのステージマネージャーがツアースタッフをモニターエンジニア、システムテクニシャン、あるいはフェスティバルエンジニア、その他ステージ上で作業する全員に紹介してくれます。そしてツアーマネージャーは自分のクルーをフェスティバル側のスタッフに紹介します。自分たちのプランを一緒に見直し、セットアップがどのようになるか、ステージのフォーメーションはどのようなものか、それにもちろん食事はどこでするかまで確認します。自分たちのセットアップ、舞台転換が始まったらどのようにバンドをステージに上げて、終わったらどうするか、それに基本的なロジスティクスもタイムテーブルとして設定します。

Zito(以下Z)自分の入力リストを確認すること!何度最新のリストを送っておいても、現場入りについてまず最初にすることは自分のショーのステージを担当する現場のテクニシャンが正しい情報を受け取っているか確認しますね。それは前もって誰に送っていたとしても、現場の人たちが古い情報を持っていることはよくあるものです。実際に印刷してある複写を常に持ち歩きましょう。

 

フェスのサウンドクルーとアーティストのクルーの関係はどのような感じ?

C: 意見がぶつかるといったことはまずありません。ツアーマネージャーがサウンドクルーとアーティストが接触するのを好まない場合はたまにありますが、私たちはそういったタイプではないですね。一緒に音を作るんですから。

 

サウンドチェックは行う?

Z: 観客の前でPAを通してラインチェックをすることはありません。観客は、タムの音が「こもっている」なんてことは気にしません。タムを50回も叩いてサウンドチェックするのを聞きたい人はいませんよ。観客がいる中で音チェックがあると雰囲気が壊されてしまいますよね。バンドの第一印象を与えるのはほんの一瞬。バンドに任せましょう。結局のところ、観客はそれを聴きに来てるんですからね。

Cヘッドライナーなら、フェスが始まる前、朝早いうちにサウンドチェックをすることも可能でしょう。そうでもない限り、基本的にはPAがオフの状態でのラインチェックですべての音が正しく出ているかどうかを確認するしかありません。そのバンドとしばらく仕事をしていれば、ミックスの点から見てどうあるべきかはもう大体わかっていると思います。

Zもうひとつのコツは、質の良いヘッドホンを常に持ち歩くことですね。これにはShureのSRH840が最適です。入力のひとつを分離して聞いたときに、ヘッドホンでいい音で聞こえていれば、PAを通してもいい音になります。僕はショー前の音楽としていい感じの曲をiPodに入れて持ち歩いていますが、実はこれが「参照」ファイルにもなっているんです。舞台変換が行われている間にこのトラックを聞いて、PAシステムがどうあるべきかを確認できるんです。もしシステム変更が必要なら、この時点で行います。観客はショー前の音楽として捉えるし、僕はすばやいチューニングができるってことですね。

 

ステージのセットアップと終わった後の引き上げにはどのぐらいの時間が必要?

C: ほとんどのフェスでは、バンドとクルーは自分たちの本番の2時間半~3時間前に現場に到着します。本番2時間前ほどにステージエリアに移動します。自分たちの前のバンドは、約15分間の間に機材を片付けてステージから引き上げます。ステージマネージャーからOKがでたら、自分たちの機材をステージに上げます。僕たちも同じように、セット終了後は15分間で機材を動かしステージから引き上げて、機材分解エリアに移動します。大体の場合、自分たちのセット終了後2時間後にはもうツアーバスに乗って移動していますね。

 

機材について

Z: フェスのシーズンは、限られたサウンドチェック、毎日変わるコンソールとPAでへとへとになる時期でもあります。長年の経験から、僕にはすごく役に立つヒントがいくつかあるのでご紹介しましょう。

  • 入力リストを計画するときは、一番ベーシックでどこででも用意できるマイクを選ぶこと。Shure製品ラインのすばらしい魅力の一つには、誰もが使っているという点があります。キックにBETA 91A/52A のコンボ、スネアにSM57、ハイハットとオーバーヘッドにSM81、タムにBETA 98を使用すれば、何があっても困ることはありません。ギターにSM57、ボーカルにSM58を使用するのも、同じように「王道」といえます。豪華さを狙う必要はありません。ここは音の戦場なのです。武器は注意深く選ぶことですね。
  • 同じマイクを常に用意するという点の他にも利点がいくつかあります。僕自身の経験から、SM58はゲインが+32db ほど必要になることがわかっています。コンソールやPAに関わらず、公称入力ゲインを得るにはその程度のゲインが必要なことがわかっているわけです。BETA 52A では約25dbのゲイン、BETA 91Aではパッドを入れて約20dbのゲインが必要です。マイクがどのように反応するかを知っておくことで、一貫性が保てるわけです。
  • EQにも同じことが言えます。それぞれのマイクにハイパスフィルターとEQで適用する基本の「カーブ」というものがあります。必要なおおよそのレベルを決めるのに、入力を確認する必要がないというわけです。

こういったことを理解しておくことで、バンドの演奏が始まったときに良いスタートがきれるようになります。

C: 私たちは自分たちのマイクを持ち込むようにしています。どれもShureの製品ですね。安定しているし、バンドのメンバーも毎晩自分のマイクを使える方が喜びますからね。出てくる音が予測できるし、皆が嬉しい、というわけです。現在使用している製品は次のとおりです。

  • BETA 58A 6本(すべてボーカル用)
  • SM57 4本(ギターアンプ用)
  • BETA 56A  4本(スネア/タムマイク)
  • BETA 52A  1本(キックドラムマイク)
  • SM81 3本 (オーバーヘッドおよびハイハット)

バンドメンバーは6人で、全員がPSM 900 インイヤーシステムを使用しています。その遮音性から、たまに観客やステージからさえ隔てられているような感覚が時々ありますが、参照用と、そしてその場のフィーリングを感じてもらうため、観客用とアンビエンド用のマイクロホンを個々のミックスに使用しています。現在は、6人中2人がカスタム成型のイヤホンを使用していて、残りのメンバー用にも製作している最中です。

 

中規模あるいは大規模フェスティバルに初参加のエンジニアへのアドバイスは?

Z: 一番強調したいのは、コミュニケーションの大切さですね。僕は必ずスイッチを入れたマイクを常に持ち歩いています。何よりもまず、ステージ上のメンバーに僕の声が届いて、それに僕もステージからの声が聞こえることが大切です。入力リストにトークバックシステムを含め、実践します。フェスは「本番一発型」です。ステージ上のメンバーとコミュニケーションが取れることはとても重要ですよ。最近はメンバーがイヤホンをつけている間にも僕の声が無線で聞こえるよう、双方向無線をスプリッタに組み込んでいますが、これがとても役立っていますね。

C:  機材すべてを安全で確実なもので揃えるようにします。それから次の項目に配慮します。

  • あらゆる角度から問題の可能性を考慮して、バックアッププランを用意しておくこと。
  • できる限り整理された系統化に努め、関わるクルー全員にステージプロットを用意すること。
  • 誰とでも思いやりをもって接すること。怒鳴ったり失礼な態度をとることは絶対にしてはいけません。
  • フェスクルーの全員の名前を覚えること。

 

この夏のツアースケジュールでどんなフェスに参加しますか?

Z: LAでのワンゴ・タンゴフェスティバルを終えたところですが、この夏には全米を回る50日間のヘッドライナーツアーを控えているので、自分たちのプロダクションが詰まっていますね。でもいくつかフェスの予定も入るかも、とは聞いています。8月にはヨーロッパに向かう予定です。

C: 僕たちは2ヶ月前に冬のツアーを終えたばかりで、ジャズフェスとステージコーチ・ミュージックフェスにも出演しました。5月からは夏いっぱいツアースケジュールで埋まっていますね。

Cain Hogsed氏は現在Jason Isbellのツアーに参加中。Full Sail Universityにてレコーディングの学位を取得した彼は、当時キッチンでも働いていたというナッシュビルのBluebird Caféにてそのキャリアをライブサウンド分野に変更。その経験により、キッチンを辞めてツアーマネージャーとしてライブステージの世界に飛び込むことができたと語っています。彼は現在、JEFF The BrotherhoodおよびJason Isbellの米国でのライブすべてのFOHを担当しています。

音楽業界で15年の経験を持つベテランのZito氏はシカゴ出身で現在はナッシュビル在住。2012年以来OneRepublicのFOHを担当しています。自身も多数の楽器を演奏し音楽の学位を持つ彼は、Christian band Daniel’s Windowのサウンドエンジニアとしてそのキャリアをスタート、Backstreet Boys、Plain White Ts、Babyfaceなどさまざまなアーティストたちのツアーを成功させています。忙しいスケジュールの合間に、Shureのブログ読者向けアドバイスにも協力してくれました。