若きサウンドエンジニアたちに贈る5つのヒント

Drew Bang | 2019年1月31日

U2、Royal Blood、Slavesなどのバンドを手掛ける英国のエンジニア兼プロデューサーDrew Bang(ドリュー・バング)氏が、自身がこの仕事を始めたときに聞ければよかったと思う、音響プロフェッショナルからのヒントやアドバイスを提供します。

決してただ働きすることなかれ

言うまでもないことでしょうが、ただ働きはキャリアにおいて誰もが少なくとも1度は経験することです。ただし、報酬をもらわないことと、ただ働きに同意することの間には大きな違いがあります。説明しましょう。

音楽ビジネスのような競争の激しい業界では、背に腹は代えられない・・・と思うことがあるかもしれません。なんにせよ、「売れっ子になれるチャンス」を提供していることに感謝すべきだと、あなたを説き伏せようとする人がそのうち現れます。そして、人気が一過性のものであっても、生活のためにそれにすがりついたとしても、あとから良いことにつながるという望みがあります。ファン層が広がるとか。より上手くライブ演奏ができるとか。収入が増えるとか。でも、それはまったくナンセンスです!

あなたの時間、才能、努力には価値があります。ただし、ただ働きすると決めた途端、お互いを尊敬し合える関係に戻りづらくなります。自分のスキル、ブランド、商品の価値を下げることで、プロ意識の低さを露呈する前例を作ってしまうだけでなく、業界の水準をも下げることになってしまいます。

あなたの時間も創造力も、ともに等しく貴重な商品です。それらと引き換えに、顔を売る機会をもっと得るようにしてください。クライアントと金銭面で折り合いがつかなければ、プロダクション印税、対価となるスタジオ利用時間、もしくは自分のマイクコレクションとして魅力的なものを要求しましょう。あなたの仕事には価値があります。それを守るかどうかはあなた次第です。

自分だけのサウンドを見つけよう

成功を手に入れるために何度も試された道のりは、他人の足跡をたどろうとする人たちが進む道です。反対に、集団の中で他より抜きんでる人たちは、他の人たち全員が右に進むときに左に進みます。

成功への道半ばでスタジオから注目を浴びるだけでも十分運がいいと思う場合でも、あなたの一歩先を行く人が常にいることを忘れないでください。その人は、おそらく仲間からの尊敬を得ていて、業界でも有名な人物です。そういう人と師弟関係を結んで、その人の下で仕事の要領を学べるかもしれません。これは、その人の後継者になりたいのであれば結構なことですが、自分を売り出す唯一の手段と考えるのは間違いです。

よく考えてみてください。昨今、フリーのサウンド技術者が成功するチャンスは今まで以上にあります。誰もが自分の仕事を共有・披露するためのプラットフォームやソーシャルメディアポータルを所有しています。他の誰かの基準を満たしたと確信を持てるようになるまで、じっと待つ必要はありません。 自分だけのベンチマークを設定しましょう。実行あるのみです!

これまで誰も聞いたことがないレコードやサウンドを作りたいのであれば、どのみち従来のテクニックでは対応できない可能性があります。それなら従来のテクニックにしばられる必要なんてありません。マイク1本だけでバンド全体のレコーディングをしてみてください!「サウンド素材集」やハチャメチャなレコーディングからアカペラを作ってみるのはどうでしょう?曲の各パートをユニークな拍子記号で書いてみたり、各ソーストラックにエフェクトリターンだけを使ったりするなどしてみてください。ただし、何をするにせよ、私のアドバイスを受け入れてください。ダサくて「わざとらしい」転調は絶対に含めないように!

「A」とは「アンビエント=環境音」

実を言うと、これは私自身の裏技なので、明かすことにためらいがあります。リバーブ(残響音)やディレイ(遅延音)の話ではなく、空間、すなわち、ありのままの素晴らしい自然環境~庭にある物置小屋、廃ビル、親の車のトランクなど~についての話です

よくないアンビエント(環境音)など存在しません。初期反射音は不快なコツコツ音を発生させますし、一般的に小さな音やこもったような音は好ましくない音と考えられています。同じ曲でもこれらの音が混ざると効果てきめんで、聴く人は何が起こるのだろうかと怖くなるのがまさにお決まりのパターンです。ですが、この記事で私が伝えたいことは、「いいことしか起こらない」ということです。ズバリ、超ワクワクする、まったく予想外の音を発する素晴らしい不思議なことです。

マイクでレコーディングを行うことについてのアドバイスが1つあるとすれば、「空間を必ず録音するべし!」です。予備のマイク(種類は問いません)があるなら、それを使って環境音がじかに聞こえる場所でその音を録音しましょう。常識にとらわれたり、必要かどうかは考えたりしないように。何の変哲もないマイクこそが真ん中の8小節に必要なものだと、後からわかると思います。

私は素晴らしいスタジオの見事な空間をいくつか録音したことがあります。U2のドラマーLarry Mullen Jr.(ラリー・マレン・ジュニア)が演奏した「When the Levee Breaks(レヴィー・ブレイク)」のドラムの音を再現したこともあります。私のこれまでで一番お気に入りのアンビエントは、「ベース空間」です。そうです、まさにベースギターのリバーブです!マイクを使ってライブ空間の音量を上げてエレキギターの重厚音を響かせたり、コントロールルームにマイクを差し込んでベーシストのスラップ奏法によるサウンドを拾ったりするなどできます。創造的な応用は無限です。どれもが素晴らしい音を奏でます!

「はい」と返事する

考えこんだり、良し悪しを勘定したりすることなく、ただ「はい」と言いましょう。それで起こりうる最悪の事態とは何でしょうか?

自分のキャリアのためにできる最高のことは、差し出される機会をすべて受け入れることです。最も難しい部分はその機会を見つけることですが、機会はいたるところに存在します。すべての経験は新たな経験へとつながります。ある経験はほかの経験よりも有利なものになります。後から振り返ったとき、長い目でみると、今行っている土台作りがそれだけの価値があることを実感するでしょう。

その場しのぎの解決策や、その場限りの感謝や、気の遠くなるような富の誘惑ばかりに比重をおかないでください。私たちは、自分たちにあるものを失うまでその価値をあまりよくわかっていません。このリストの1番目のポイント(決してただ働きすることなかれ)を常に念頭に置いて、すべての状況を最大限に活かしてください。決意を試されることに耐えなくてはならないかもしれませんが、価値ある経験を得られるでしょう。1か月間同僚を手伝ったり、奉仕したり、お茶を淹れてあげたりすると、お金では買えないさらなる仕事を呼ぶつながりを得られるかもしれません。

多少の誤解を生むかもしれませんが、やることすべてに前向きに取り組めば、周囲のあなたへの見方も同じく前向きなものになります。美しい庭園作りのための種まきと考えればいいのです。今はひたすら人がいやがる大変な仕事をするしかないかもしれませんが、その状況が長く続くわけではありません。

自ら楽しもう!

お金や、年金・退職の資金のために音楽業界で仕事をしている人はほとんどいませんし、当然ながら名声を得るために仕事をしているわけでもありません。音楽は私たちの存在の延長です。心の若さを保ち、好きなことで生計を立てられる、もっと素晴らしい方法が他にありますか?

全体像を見失うことは簡単です。あなたの両親があなたのために思い描いていたキャリアではないかもしれませんが、音楽はビジネスです。このことを忘れないでください。知らず知らずのうちに、スケジュール、ルーチンワーク、訳の分からない法務業務といった、従来の日々の業務に埋没されることになります。これは仕事の退屈な側面です。

その時々で知り合った数多くの仲間たちが、長く成功しているキャリアを積んでいます。彼らは絶え間なく働きながらも、変わりゆく仕事の状況を常に嘆いています。これが嫌だ、あれが嫌だとしょっちゅう愚痴をこぼし、朝9時から夕方5時までスタジオでレコーディング作業を行うことや、自宅で座り続けてミキシング作業を行うことを拒みます。彼らは、かつてバンドのトラッキング作業を行うことが大好きで、音楽への愛にどっぷり浸りながら、一晩中寝ずに飽きることなくその魅力にはまっていた人たちなんですけどね。

私はスッキリ目覚めて仕事にのぞみたいかな。いや、ちょっと待ってください–やはり今日がクリスマスイブかのように夜中起きていたいかも。すでにレコーディングしたものや、明日レコーディングするものをしきりに考えると、朝が来るのがあまりにも待ち遠しくて、目をつむれません。仕事のマイナス面が気になる場合は、何か別のことをしましょう。たとえば、最後まで頑張ってやり終えたいけどレコーディングで行き詰まったら、バンドを始めるとか。

仕事人生に喜びを取り戻す方法はたくさんありますが、自分の大好きなことに集中することが大切です。たまに一息入れて、自分の内面に向き合ったり、(その気があれば)瞑想したりしてみましょう。何よりも、自分を幸せにしてくれるものと再びつながりましょう。

 

Drew Bang

Drew BANG(ドリュー・バング)氏は、ロンドンを拠点に活動する、数々の賞に輝く英国のエンジニア兼プロデューサーです。ロンドンのイーストエンドにあるショーディッチのスタジオ「Strongroom Studios」からキャリアを開始し、Tony Platt(トニー・プラット)、Jason Perry(ジェイソン・ペリー)、Jolyon Thomas(ジョリョン・トーマス)などのプロデューサー陣とのレコーディングを通じて、その名を知らしめました。「Abbey Road」、「AIR」、「ICP」、「Shangri-La」など、世界最高峰のスタジオで働き、U2、Royal Blood、Don Broco、Slavesといったバンドと仕事をしてきました。