ライブサウンドの収録: 5つの基本ルール

ライブサウンドの収録: 5つの基本ルール

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ライブサウンドの収録: 5つの基本ルール

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ここではライブサウンド収録のエンジニアを務めるAdam Lansky氏のライブサウンド収録における5つの基本ルールが読者に役立つかと思いますので、そちらに焦点を当ててご紹介していきたいと思います。

アーカンソー・シンフォニーオーケストラ、ホットスプリングス・ミュージックフェスティバル、ワイルドウッド・ミュージックフェスティバル、そしてアートポーター・ジャズフェスティバルなどのライブサウンド収録のエンジニアを務めるAdam Lansky氏は、アーカンソーに拠点を置くLansky Soundのオーナー。自身のQuadkilleRというユニットの音楽制作のため、より良い音質のレコーディングを追求し、それが教育や制作の現場に、またLittle Rock(アーカンソー州の都市名)にクラウドソーシングのモバイルレコーディング企業を設立するまでの道のりを切り拓きました。そして彼とそのクルーは短期間でアーカンソーのクラシック音楽のライブサウンド収録に必要不可欠な存在となりました。彼はまた、アーカンソー中央大学の客員講師も勤めています。(詳細および彼のレコーディングはlanskysound.comで紹介されています。)

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「クラシック音楽の素晴らしさは理解しているけれど、好きなのはエレクトロ・スペースロック」というタイプだった彼を知る人には、このキャリア展開は意外かもしれません。しかし彼は、機会というものは思わぬところにあることを理解していました。「コツを知っている人がいるなら、そのチャンスに飛びつくべきだ」と彼は語っています。「一生に一度のチャンスかもしれないのだから」と。そんな彼のロシアのハバロフスクでのファーイースト・シンフォニーオーケストラのレコーディングも素晴らしい経験の一つとなっているそうですが、ここでは彼のライブサウンド収録における5つの基本ルールが読者に役立つかと思いますので、そちらに焦点を当ててご紹介していきたいと思います。

 

ルール1:常に平常心を保つこと

何が起きようとも、落ち着いて全体の状況を見極めるまで、問題が発生したとは発言しないようにしましょう。どんなセッションにおいて必ず何かしらの問題は起きるものですが、その中でも、ライブサウンド収録エンジニアには論理的に行動することが求められます。第一に、状況を理解することです。ライブサウンド収録は、環境に適応し、その状況を録音することを目的としています。エンジニアは常に先を読みレコーディング前、最中、そして後に至るまで、あらゆるニーズを予測する必要があります。どこにコンセントがあるか、ラックのどちらの部分がフロントになるか、などという細部への配慮も、実際には大幅な時間の節約に繋がります。すべての状況に対して準備することは不可能ですが、あらゆるレベルのディテールにおいてレコーディングのプロセス全体について考慮することは非常に大切なのです。チェックリストをつけるようにするといいでしょう!

私がライブサウンド収録を始めたころ、オフィスから1時間半ほど離れた場所にある教会でのセッションを録音する仕事が入りました。現場まで移動しセットアップを始めてから、ようやくXLRケーブルをすべて忘れてしまったことに気づきました。セッション中に使う予定の12本ほどもあるマイクを接続するものが何もなかったのです。しかし、もし私がミュージシャンたちにこの事実を知らせてしまったら、彼らは私の能力を疑うことになるかもしれませんし、セッション自体の質が落ちるばかりでなく、新規クライアントとの関係にも悪影響が出るでしょう。そこで私は落ち着いて現場のサウンドテクニシャンに話しかけ、「念のために」何本かケーブルを借りられないか、と頼みました。幸運なことに彼らは30本ほどのケーブルを持っていたので、私に必要な本数は十分ありました。ミュージシャンたち(テクニシャンも含め)の誰もが、この日私がケーブルを持っていなかったことを未だに知りません。レコーディングはもちろん大成功に終わりましたよ。

 

ルール2:準備は入念に

パフォーマンスを行う会場を事前にチェックし、セットアップする場所、環境要因で調整が必要か、などについて感触を得ておく。事前に確認することができない場合は、エアコンはオフにできるか、ライトからノイズが出ていないか、外の交通量が激しくて騒音が聴こえてしまうことはないか、ドアが常に開閉されるか、という点を考慮してください。ミックス段階でこれらの問題に対処することは非常に困難を極め、時間もかかるものなのです。コントロールできない環境ノイズがある場合は、前もってクライアントにこの旨を伝えておきましょう。エアコンがオフにできないときはウインドスクリーンを使用してください。セットアップはサウンドチェックの30~60分前には終わらせて、微調整の時間に当てるようにしましょう。

サウンドをどのようにレコーディングするべきかをラブパフォーマンスに基づいて把握できるよう、演奏の様子が見える場所にセットアップすべき場合もありますが、それでも必ず動線からは離れ、他の人から見えない場所にセットするようにしましょう。マイクスタンドの足には砂袋を乗せ、倒れないようにセットします。ケーブルはすべてテープやケーブルプロテクターで床に固定し、転倒などの事故が起きないようにしましょう。誰かがケーブルに引っかかって転倒して膝を強打したり、倒れたスタンドのマイクが誰かの眼に当たって怪我につながったりと、マイク、マイクスタンド、ケーブル、入力端子、すべてが壊れてしまうという事故はどこでも起きているのです。しかし、スネークケーブルを使うことで、絡み合ったケーブルの塊を排除し、足元もスッキリとさせることができます。保険に入ることも重要です。「音楽スタジオ用」として保険を販売している企業はいくつかありますので調べてみてください。

 

ルール3:チェックは二度、レコーディングは一度きり

信号の流れを理解し、切羽詰った状況でもトラブルシュートできるようにしましょう。モバイルエンジニアの場合、レコーディングはほとんどの場合がライブパフォーマンスのため「やり直し」がききません。ライブでは同じ曲を2回続けて、というわけにはいきませんからね。エラーはそのまま残り、これを直すのはきわめて困難であるか、または不可能です。チャンネルの入力レベルがおかしいと感じたときに、警告を出すことなく素早く精確に調整できる能力が何よりも重要なのです。しかも、エンジニアがステージに上がれば、誰もがエンジニアに注目し、悪いことはすべてエンジニアのせいと観客のほとんど全員が思い込んでしまうものです。

レコーディングセッションについて記録しておくと、後で非常に役に立ちます。距離、高さ、角度、マイクロホンの場所、ゲイン設定、エラー、日付、時間などはプロジェクトフォルダ内にテキストファイルで記録しておきましょう。デジタルカメラも記録ツールとして便利です。このようなデータはミックスの調整をしたり、似たような状況で設定を振り返る時に役立つでしょう。

 

ルール4:状況の把握

パフォーマー、マネージャー、その他一般の人々、たとえばはしゃぎまわる子供たち、悪ふざけをする人、礼儀をわきまえない若い人たち、泥棒、いろいろな意味でのマニアなど、すべての人種に対応する心積もりでいましょう。輝く機材に興味を持つ人は多く、ずらりと並ぶノブに触ってみたいという人も少なくありません。状況の把握こそが鍵となるのです。ライブサウンド収録エンジニアはショーに応じて適した服装を選ぶこと。パフォーマンステクニシャンの基準は全身黒、というものですが、私の場合は、パフォーマーと似た服装を選ぶようにしています。オーケストラであればスーツ、ヒップホップならジーンズとポップなシャツ、インディロックであればチェック柄のシャツ、といった具合です。こうすると、パフォーマーが親近感を持ってくれますし、さらに次のルールにも繋がります。

 

ルール5:自分の仕事こそが名刺

現場では、私はただレコーディング作業だけをしているわけではありません。自分自身を積極的に売り込んでいるのです。出会う人誰もがクライアントになりえるわけですから、要求の高い場所でも常にプロとして仕事をこなせるかでどうかで、ライブサウンド収録エンジニアとしてのキャリアに差がつきます。プロモーション用の素材を常に用意しておくことも大事です。いつ誰に話しかけられるかわかりませんからね。現場で作業しているモバイルエンジニアを見ると、人々は必ず「プロがいる」と思うもの。それこそが最高のプロモーションになるんですよ!

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最後にもう一つ。私のライブサウンド収録時の機材チェックリストです。

    • 無停電電源装置(またはUPS、電池のバックアップ)
    • パワーコンディショナー
    • AC電源用延長ケーブル
    • 高遮音性ヘッドホン、およびヘッドホン延長ケーブル
    • ポータブルフライトケース
    • 台車またはカート
    • 折りたたみ式のテーブル
    • メジャー
    • 砂袋
    • デジタルカメラ
    • ワイヤレスマウス
    • 機材用の頑丈でロック可能なケース
    • 8~16チャンネル用のスネークケーブル、長さ4メートル程度
    • 現場で再生用の小型スピーカーセット
    • 耳栓
    • 上質なショックマウント
    • パラシュートコード(ナイロンコードまたは釣り糸でも可)
    • 粘着テープ
    • 作業用グローブ
    • 予備の電池
    • 懐中電灯
    • 名刺とプロモーション用素材
    • 「言い訳はしない。必ず実現する」という心構え