アーティストとそのエンジニアたち パート1

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長年にわたりこの二つのグループの関係を目の当たりにしてきたからか、次第に彼らのギブアンドテイクの関係に興味が湧いてきたので、そんな彼らの関係について色々な話を集めてみました。まずはその理想的な関係の特徴についてまとめましたので、ご紹介しましょう。

ライブパフォーマンスの成功には多数の要素が関わっています。関係者全員がチームとして連携し、ファンが喜んでくれるよう最後の一音が終わるまで自分の仕事を確実にこなすことが求められます。

アーティストとそのエンジニアたちとの関係は、あらゆるライブパフォーマンスにおいてその成功の鍵。アーティストが良い音を楽しんでいれば、彼らはパフォーマンスに集中することができ、より良いショーが実現するのです。逆に音に問題があれば、アーティストの気分さえも台無しになってしまいます。

 

理想的な関係

この仕事をしていると、シアター、ミュージックフェスティバル、授賞式などのバックステージに入り、アーティストとエンジニアの両方と共同で作業する機会が数多くあります。そして、長年にわたりこの二つのグループの関係を目の当たりにしてきたからか、次第に彼らのギブアンドテイクの関係に興味が湧いてきたので、そんな彼らの関係について色々な話を集めてみました。まずはその理想的な関係の特徴についてまとめましたので、ご紹介しましょう。

 

Maroon 5:アーティストの視点
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アダム・レヴィーンは、エンジニアとの関係は基本的にクリエイティブであるべきだと考えています。「僕たちの音を扱っている人とは全員、クリエイティブな関係を築くべきだと僕は思っているよ。」とアダムは語っています。「誰かがミックスをしたり、自分にこのマイクを使えと渡してきたり、ギタートーンについて手伝ってくれているなんて時は、いつでもクリエイティブな感覚でアプローチするべきだと思うんだ。ちょっと現実的過ぎたりする人が相手だと、音もフラットになってしまいがちだからね。」

ジェームス・バレンタインはエンジニアもバンドメンバーの一員と考えているそうです。「エンジニアのみんなとはすごく親しいよ。基本的には、みんなバンドのメンバーだと僕は思っている。僕たちがやっていること、僕たちが表現したいこと、そして観客のみんなが受け取ること、これらすべての間を繋いでいるのがエンジニアたちだ。だから彼らはとても、とても重要な存在なんだよ。」 さらに彼はこう続けます。「観客のみんなとステージ上の僕たちとでは、聴こえている音が違うんだ。ケビン(モニターエンジニア)は、僕たちが体験する音を創り上げようと本当に良い仕事をしてくれる。僕たち自身が一番良い音を出すには、ステージ上で素晴らしい音を感じられることがとても大切なんだ。」

 

Maroon 5:エンジニアの視点
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FOH担当のジム・エブドン氏(左)とモニター担当のケビン・グレンディニング氏(右)

次に、バンドのFOHエンジニアであるジム・エブドン氏とモニター・エンジニアのケビン・グレンディニング氏に話を聞いてみました。

エブドン氏はバンドメンバーが彼らのミックスをそれぞれどのように体験しているのかについて説明してくれました。「彼らはインイヤーで(ケビンの)ミックスを毎晩聴いているけど、彼らの友達やガールフレンド、奥さんたちが感想を話すのは僕のミックスになるわけだよね。」

「または、Youtubeで聞くこともあるだろう。」とグレンディニング氏。

エブドン氏はさらに次のように続けます。「だから信頼感はとても大切だ。これまでの経験やトラックレコードから、僕なら良い音を聞かせられると、彼らが信じてくれていることを祈るよ。自分のキャリアと彼らのキャリア、どちらも傷つけるわけにはいかないからね。」

ケビン・グレンディニング氏は、新しい機材が入ったり、新しいアイディアが浮かんだ時に、皆がどのように一丸となって作業するのか、という部分について説明してくれました。「マイクを変更したり、違うアプローチを試すことにしたり、ステージレイアウトを考え直したりすることがあると、ジムはよく『これでケビンが助かるからね』と言うんだ。そして僕はよく、『みんな、こんな風に演奏してくれるかな・・・じゃないと、ジムが大変なんだよ。』と言うんだよ。すると、ショーのミックスに関しては僕たちには何年もの経験があると皆も感じることができて、信頼感が生まれるんだ。どのバンドでもこんな風になるわけじゃない。本当に一致団結という感じなんだよ。音のことで何か持ち上がると、耳の問題か、FOHか、これが難しいとか、これを解決しようとか、大抵みんな僕たち両方に協力してくれる。最高のチームワークさ。ジムと僕が怒鳴り合うことなんて、週に1回ぐらいじゃないかな。」

「しかも、まったく仕事と関係ないことでね」とはエブドン氏の弁。

グレンディニング氏は笑いながら、「いやいや、サウンドのミックスとか、ショーのやり方とかだよ。本当だよ。」と答えていました。

 

デイヴ・ムステイン:アーティストの視点
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メガデスが次のアルバムのトラック作業を行っているスタジオで、理想的なアーティストとエンジニアの関係についてデイヴ・ムステインに話を聞きました。

「忠誠心。機密を守ること。物事を習える性格。全部大切だね。自分がすべてをわかってると思った瞬間から、実は何も知らないんだってことをみんなに見せてるようなものだ。まだこの世界に入って間もない若いエンジニアたちと仕事をすると、アーティストに確認もしないで、自分は何でも知っていると思いこんで仕事を進めようとするタイプが割と多い。これは良くない。良いアイディアを出すことは大事だけれど、チームの一員なんだから、周りの意見を確認せずに人にただ命令を出してるようではダメだね。」

デイヴはさらに続けます。「一番大切なのは、人との接し方がしっかりしていることじゃないかな。エンジニアとして価値がある人間であれば、いずれ色々なアーティストたちと数多く仕事をすることになる。アーティストはみんな、まるでパレットの上の絵の具みたいにばらばらで、それぞれが個性的だ。だから応用力とか瞬発的な対応力が求められることになる。言ってみれば、アーティストっていう名前の患者を理解する心理学者みたいにならなくちゃいけないってこと。のんびりした奴もいれば、緊張感が張り詰めている奴もいる。お金と一緒だ。最後の1円までどこにあるか確認したがる人がいれば、全然気にしない人もいるだろう。」と語っています。

 

ロバート・ブル:エンジニアの視点
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マルティナ・マクブライド&ザ・ローリング・ストーンズのモニター

テキサス州アーリントンで開催されたカントリー・ミュージック・アカデミー賞の50周年記念コンサートに参加していた時、マルティナ・マクブライド&ザ・ローリング・ストーンズのモニターエンジニアであるロバート・ブル氏を含めたエンジニアのホストたちに、この話題について話を聞くことができました。

「信頼感は大事ですね。」とブル氏は語っています。「どんな状況になっても必ずお互いがお互いを支えている、とわかっていること、必ず全力を尽くしていると信じられること、これがとても大切です。私のチョイスがベストだと、彼らが信じてくれているということです。

そしてもう一つは、あきらめないことです。ミック(・ジャガー)の場合、何を尋ねるべきか自分ではわからない人だけに、最初は大変です。いらだつことも何度かありましたよ。マルティナとは2ヶ月ほど前に、どうにもうまくいかないままだったステージが1度ありました。その時には、とにかくポジティブな態度で仕事をやりぬいたんです。でも、だからこそ彼らは今でも私を信用してくれているんじゃないかな。」と彼は笑って言いました。

ここで私は、オーディオについて深い知識を持つマルティナ・マクブライドは、彼女自身に聴こえている音を、彼にわかるように説明できたかどうか尋ねました。

「彼女はちゃんと説明できますよ。」と彼は語っています。「位相が外れているとどんな風に音が聴こえるか、彼女は良くわかっています。彼女は彼女自身の持つ周波数を良くわかっているんですよ。だから自分に合わない周波数もわかる。ステージ音量についても鋭いし、ハウスと取り組むのが本当に上手な人です。ウェッジ(※1)をオンにしないでハウス(※2)を聴くと、それはひどいものなんですが、これをブレンドすると音が立体的になり、Hi-Fiのようなとても良いミックスになるんですよ。これが彼女のアプローチで、彼女自身にとって快適な音なんです。これを毎日達成するのが目標ですね。」

※1 ステージ上のモニターの音

※2 ステージの表の音