オーディオ・エコシステム 第1回:会議用マイクロホン

Chris Lyons | 2020年6月15日 オーディオ・エコシステム 第1回:会議用マイクロホン

遠隔会議は、仮に映像が途切れても成立しますが、一方音声はどうでしょうか?リサーチ結果では、IT部門の意思決定者のうち81%は遠隔会議の品質向上に最も大きく影響する要素として、音声を挙げています。音が良い時には、会議の音声という部分は特段意識されることがない一方で、悪い時は決して見逃されることはないものです。疲労の原因になるだけでなく、集中力や理解力も低下していきます。そしてそれは生産性の低下につながり、最終的には企業全体収益にも影響すると考えるべきです。

この連載記事では、オーディオ・エコシステム、つまり会議オーディオシステムの機器それぞれが担う役割という意味ですが、それぞれが音声品質にどのような影響を及ぼすのかを紐解いて行きたいと思います。遠隔会議、すなわち映像と音声を扱う会議において、オーディオシステムの役割は会議室内の参加者の声を収音して相手側に送ることと、相手側の声を再生することです。そのためには、音が明瞭であり(何を言っているか理解できる)、自然である(向かい合って話をしているように聞こえる)ことが必要です。第一回はマイクロホンの役割について取り上げます。

マイクロホンの役割はただ1つ

会議用マイクロホンは、一連の音声システム機器への入口であり、その先で起こるあらゆることの原点です。マイクロホンの役割はただ1つ。それは、空気を伝わって移動する音波を伝送・増幅・記録できるよう、音声ケーブルに流すオーディオ信号に変換することです。マイクロホンから送り込まれるオーディオ信号のクオリティーが低いと、それがそのまま出力先に伝わり、スピーカーはそのとおりに変換し直すしかありません。こもった音やうつろな音がする、あるいは音がノイズに埋もれる場合、責任の大部分はマイクロホンにあります。

声が話し手の口からマイクロホンに届くまでの道のりには、周辺の雑音や部屋の残響といった「音響の沼」とも言うべき要素が複雑に絡み合い、待ち受けています。その距離が長ければ長いほど、沼にはまりやすくなるのです。

クリアなオーディオ信号を得るには、マイクロホンが話者の声をできるだけ大きく収音し、部屋のノイズや残響をなるべく拾わないようにする必要があります。しかし、話し手の声はマイクロホンに届くまでに、(換気口、建物の振動、人などから発生する)ノイズや(声が硬い表面に反射することで発生する)残響からなる「音の沼」を通り抜けなければなりません。声の移動距離、つまり話し手とマイクロホンの距離が長ければ長いほど「沼」に埋もれやすくなり、ある距離を超えるとほぼ完全に埋没して聞き取れなくなります。

これを回避する方法は3つしかありません。1つめの方法は「沼」をなくすことです。部屋をレコーディングスタジオのように静かで反射しない状態にすれば、声がノイズや残響を通り抜ける必要はほとんどなくなります。しかし、そうした職場や会議室はまれで、そのような環境を用意するのはコストを考えても難しいのが普通です。

2つめの方法は、声が「沼」に沈み始める前に収音することです。これは簡単かつ有効ですが、それにはシンガーがコンサートで歌うときのように、話し手の口のすぐ前にマイクロホンを設置する必要があります。しかし、ビジネスの場では当然、全員がハンドマイクを持つわけにもいかず、そうなると最低でも口元から1mくらい離れたテーブルの上、実際の運用上はもっと離れているかもしれません。場合によっては壁や天井にマイクロホンを設置する必要もあるでしょう。

3つめの方法は、音声とノイズや残響を的確に区別できる会議用マイクロホンを使用することです。離れた位置からクリアで聞き取りやすく自然な音声を捉えるには、感度のほとんどを話し手に対して発揮し、周囲のノイズや残響に対してはほとんど発揮しないマイクロホンが必要です。従来、そうした性能を備えたマイクロホンといえばショットガンマイクロホンしかありませんでした。ショットガンマイクロホンは、長い筒を使用してマイクロホンの指向特性を狭くするものですが、60 cmの筒が壁や天井から突き出ているさまは一般的な職場環境にはなじみません。

アレイマイクロホン

これに対する最新のソリューションはアレイマイクロホンです。Shureのアレイマイクロホンは、薄型の筐体の中に100個もの小型マイクロホンを集約し、天井、壁、またはテーブルに簡単に設置できるようにしたものです。アレイマイクロホンは、指向特性を極挟角から広角まで調整できるため、特定の座席から部屋全体まで、さまざまな利用環境をカバーできます。

特に、アレイマイクロホンは複数のローブ(収音範囲)を配置することで、室内のさまざまな位置にいる話者の声を捉えることが可能です。例えば、演壇に立つ、あるいは会議テーブルの上座に座る1人の声を収音する場合は狭いローブ、テーブルの片側に座る3~4人の声を収音する場合は中間のローブ、研修室で質問をする受講生の声を収音する場合はいくつかの広いローブに設定します。アレイマイクロホンは、各ローブを個別に調整することで室内にいる全員の声のレベルを均一にそろえることができるのです。

上述したShureのアレイマイクロホンの例では、マイクロホン本体にDSPを内蔵しています。DSPと呼ばれるデジタル信号処理は遠隔会議の際、収音後相手側へ送るために音声をミックスしたり音質を整えるために必要なパートで、これを正しく使うことで、会議用マイクロホンの自由度がさらに高まります。次回の記事では、DSPがオーディオ・エコシステムの非常に重要な部分を占めるようになった理由を取り上げます。

適切なマイクロホンがオーディオ・エコシステム内のあらゆる機器を支える

マイクロホンは音声の原点であり、マイクロホンが音声信号の強固な基盤を提供できれば、オーディオ・エコシステム内のあらゆる機器がそれぞれの機能を最大限に発揮できるのです。オート・ミキサーはより的確に立ち上がり、オート・ゲインコントロールはよりスムーズにレベルを調整でき、エコー・キャンセラーはより完全にエコーを除去することが可能になります。部屋のノイズや残響に埋もれない、クリアでわかりやすく自然な声の収音は、簡単そうに見えて実はなかなかに難しいものです。疲労や集中力低下を引き起こすことなく、快適なコミュニケーションと最大限の生産性を支える音声品質を実現する。そのためには、部屋とその中にいる人に適応しながら最高の「素材」を引き出すことができるマイクロホンが必要なのです。

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Shure Microflex Advanceアレイマイクロホンは、調整可能な収音ローブと内蔵DSPを備え、天井/壁/テーブルへ柔軟に設置でき、システム構成と設定もシンプルな作業性を実現しています。詳細はhttps://www.shure.com/ja-JP/conferencing-meetings/solutions/microflex_advanceをご覧ください。

Chris Lyons

Chris Lyons

Shureで30年に渡りマーケティングと広報畑を歩んできたベテラン。複雑な音響技術をクルマや食べ物に例えてわかりやすく解説することを得意としている。歌や楽器の演奏はしないが、代わりに同僚を笑わせる。