サウンドエンジニア 小松 久明氏 マイクロホンレビュー (KSM8)

僕が担当しているアーティストでは大黒摩季さんにSHURE KSM8をボーカルマイクで使用していただきました。
WHY WE CHOOSE SHURE - Shureを選ぶ理由 -
サウンドエンジニア 小松久明 KSM8ダイナミックマイクロホン レビュー

僕が担当しているアーティストでは大黒摩季さんにSHURE KSM8をボーカルマイクで使用していただきました。2016年に活動を再開された大黒さんですが、その年の8月11日に札幌にあるライブハウスのベッシーホールで、ファンクラブ限定のライブ「M'D-LIVE #01 in Sapporo ~Just Start Again☆~」を行いました。ベッシーホールは200人も入ったら満杯になる会場で、もともと大黒さんが高校時代に出演した所縁のある場所でした。 そういう経緯もあったので、普段ワイアレスを使用している大黒さんですが、このライブでは当時のようにワイアードのマイクで歌ってみませんかって提案しました。それでマイクのセレクトを思案しているときに、たまたまライブのリハーサルをしていたスタジオにKSM8が展示してあったんです。それを見た大黒さんが“このマイク、カッコイイし、音も良さそうじゃない? 私、これ試してみたいわ”ってことになって(笑)。 後日、リハーサルでテストして、本番でも使用することになりました。やっぱり見た目は大事ですよ。KSM8はSHUREのロゴの入れ方からもデザインの完成度が高いですし、随所に作り手のこだわりが感じられます。

大黒さんはKSM8のサウンドについて、パンチの効いた音と評価していましたが、僕もそう評する感覚がよく分かります。大黒さんは自分の声の低くて暖かい部分の音域を大事していて、そこがKSM8とフィットしていると思いました。
例えば、近接効果が出る状況でも、KSM8は低い音域がこもらずに綺麗に出る。それでいて音が固くなったり痛く感じることもないので、ミキサー卓のオペレーションでも特にEQ処理の必要を感じないほど扱いやすかったです。
これはKSM8の周波数特性とカーディオイドのバランスの良さに起因するのでしょう。つまり、物理的な周波数特性と実際の特性が一致しているのでカブリ方も綺麗に聴こえます。例えば、別の現場でピアノのボトムにそれまで使っていたリボンマイクからKSM8に替えたのですが、その理由は低域の空気振動をナチュラルに拾えたからです。
KSM8はピアノのようなレンジの広い楽器でも低域から高域までナチュラルに収音できます。その意味でも、KSM8の音はSM57やSM58の延長線上ではなく、新しいSHUREのサウンドを提示していると思います。

もうひとつKSM8が素晴らしいのは、グリルに仕込まれたウインドスクリーンです。僕は常々、ウインドスクリーンは最終的にマイクの音質や音量、距離感を決めるパーツとして重要視していて、自分が所有するマイクでもモノによっては張り替えています。
KSM8のウインドスクリーンは、ボーカリストの息がかかりやすい正面がスポンジで、サイドが目の細かいシルク調の布で、縫製も丁寧に仕上げてあります。これはよく考えられているなと感心しました。KSM8はグリルの形状とダイヤフラム後部の空間でアコースティックなイコライジングを施して、そのうえで息の吹かれなどを考慮し、ベストなスクリーンのチョイスがこれだったんだろうなという、設計者の思いがこちらに伝わってくるようです。
先述したように正面がウレタン製のスポンジになっていますが、もし吹かれの少ないボーカリストなら、正面もシルク調の布にしても良いと思いますし、そういったウインドスクリーン素材の選択肢があったらいいなとも思いました。
このようにKSM8はウインドスクリーンひとつをとっても、設計者のプライドが伝わってきます。僕はこういった設計者が製品のパーツに込めた思いが伝わってくる製品が大好きです。今後僕が携わる現場でも、もっといろんなボーカリストにKSM8を試してもらいたいなと思っています。

 

小松 久明 (こまつ ひさあき)
小松 久明 (こまつ ひさあき)

ヤマハ音楽振興会音響部にて12年間エンジニアとして勤務したのちに独立し、有限会社オアシスを設立。これまでに大黒摩季、LUNA SEA、INORAN、手嶌 葵、石野真子など、幅広いアーティストのライブサウンドを手掛けるほか、洗足学園音楽大学 音楽・音響デザインにて後進の指導にもあたる。

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