フォーリーレコーディングに関するあれこれ

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伝説はこんな具合に生まれました。1927年のワーナー・ブラザースの大ヒット作『ジャズ・シンガー』(原題:The Jazz Singer)の成功を受けて、当時の映画スタジオは我先にと自前のトーキー映画の製作に乗り出しました。

伝説はこんな具合に生まれました。1927年のワーナー・ブラザースの大ヒット作『ジャズ・シンガー』(原題:The Jazz Singer)の成功を受けて、当時の映画スタジオは我先にと自前のトーキー映画の製作に乗り出しました。『ショウ・ボート』(原題:Show Boat)は、ほとんどサイレント映画として撮影されましたが、ユニバーサル・スタジオの幹部はジャック・フォーリー(Jack Foley)という名前の男に、撮影後の編集段階で映画に音響効果を加えることを依頼しました。

他の映画製作会社もすぐにこのやり方を取り入れ、フォーリー(Foley – Fは大文字)は今日に至るまで彼の名前を冠した録音芸術の父となりました。

 

フォーリーがどのように録音されているか

大規模なデジタルSFXライブラリーは例外として、ジャック・フォーリーが開発した基本的なやり方は現在も踏襲されています。足音、体の動き、小道具の操作は、今もなおフォーリーアーティストがスクリーン上の映像に合わせて慎重に収録するサウンドのTop 3です。

ポストプロダクション・レコーディング・スタジオにおいてフォーリーレコーディングがどのように行われているのかを探るために、Shureカメラマンのスチュアート・ヴァン・ドルン(Stuart Van Dorn)と私は、ある冬らしい日の午後、シカゴのリバーノース周辺に向かいました。目的地であるNoise Floor社では、サウンドデザイナー、作曲家、プロデューサー、ミキサー、ロケーションレコーディストの10人体制のチームがオーディオマジックを生み出しています。そのスタジオは、ミキシングスイート、レコーディングスタジオ、作曲スペース、編集ベイが迷路のように入り組んでいます。

 

シカゴのフォーリー事情はロサンゼルスのような映画産業都市とは少し異なるため、Noise Floor社のチームにはフォーリースタジオを常設する余裕はありません。そのため、砂や砂利からスイッチ、古いコンピューターキーボード、自動車のホイールキャップまで、あらゆる仕事道具を入れた多数のプラスチックボックスを、最大のミキシングスイートに隣接した小さなスタジオに運び込んで収録に臨みます。

案内をしていただいたのは、サウンドデザイナーでフォーリーアーティストのブライアン・ヘンズレー(Bryen Hensley)氏で、こちらからのたくさんの質問にも答えていただきました。

 

足音や体の動きといった最も一般的なフォーリーサウンドは初期の頃からあまり変わっていませんが、それはなぜですか?

 

オーディオ素材に収録されている会話をクリーンアップすると、それらのサウンドも消えてしまうからです。ADR(Automated Dialogue Replacement、いわゆるアフレコ)を行う場合、そのシーンを最初から再構築する必要があります。

 

フォーリー特有のマイクロホンやテクニックはありますか?

通常は極性パターンが非常に狭いマイクロホンを好んで使います。カーディオイドやハイパーカーディオイドですね。ただ、収録現場のノイズは拾いたくありませんので、ショットガンマイクロホンを使う傾向があります。

マイクロホンの設置は本当に目的のサウンド次第です。足音の場合、かなり近接配置するのが好きです。ズボンの音ではなく足音そのものだけを収録したいからですね。もう少しワイドなサウンドが必要な場合は、マイクロホンを少し遠ざけるか、指向特性が広い別のマイクロホンに変更します。向きを180°変えてみたり、高さを上げてみたり、さまざまな位置を試します。

これは、エンジニアとフォーリーアーティストのコラボレーションです。他のレコーディングアプリケーションと同様に「スイートスポット」を探すということです。

 

あなたのチームが収録した変わったサウンドの最近の例を挙げていただけますか?

昨年の秋、主役が甲冑を着て動き回るサウンドを創り出さなければならないことがありました。結局、金属の板を吊り下げた大きなベルトを使い、動き回りながら金属同士がぶつかり合う音をコントロールできました。また、狙った効果を得るためにその音を重ねて合成したサウンドも創り出しました。

 

SFXライブラリーにない、あるいはフォーリーステージで創り出すことができないサウンドはありますか?

我々のライブラリーには100万種類のサウンドがありますが、現在製作中の映画では、1900年頃のマットレスに2人で腰掛けるサウンドが必要です。あるスタッフの祖母が古くてきしむマットレスを持っていることがわかりましたので、彼の家に出向いてフィールドレコーディングを行う予定です。フォーリーレコーディングは万事この調子です。スタジオにこもる必要はありません。

 

自前のサウンド・エフェクト・ライブラリーは、まだそんなに忙しくなかった頃に拡充しました。手持ちのマイクロホンは、2~3本のステレオマイクロホンと1本のステレオ・ショットガン・マイクロホンです。また、この数カ月の間にShure MV88をかなり使いました。自動車のイグニッションにキーを差し込むサウンドが必要でしたので、MV88とiPhoneを手に駐車場まで走り、自動車に乗り込んで録音しました。

 

Noise Floor社は独立系の映画製作会社、ゲーム開発者、ゲーム会社と取引がありますが、通常の仕事の流れはどのようなものですか?

プロジェクトのタイプや複雑さによってさまざまです。独立プロダクションのプロジェクトから超大作まであらゆる仕事がありますが、基本的な流れは同じです。

  • 試写:まず、クライアントと一緒に編集済みの映画を試写し、ショットごと、シーンごとに見当をつけます。
  • 試聴:次はオーディオ素材の試聴です。試聴しながら、必要なクリーンアップをすべて行います。
  • 作業の特定:その時点で、必要なADRの程度、必要なSFX、収録する必要があるフォーリーを決めます。
  • 割り当て:必要な作業を特定したら、チームでミーティングを行って作業分担を決め、オーディオポストプロダクションのスケジュールを立てます。
  • フォーリー収録:これには通常、フォーリーレコーディストとフォーリーという2人のサウンド・チーム・メンバーが関わります。フォーリーの収録とクリーンアップにかかる時間は、プロジェクトの期間や複雑さによって半日で済む場合もあれば、数日間に及ぶ場合もあります。
  • ファイルのコーディング:シーン、ロケーション、キャラクター別にすべてのトラックをコーディングします。背景音、フォーリー、効果音、会話と進めるにつれて、ディープになっていきます。
  • 長編映画の場合、編集者から渡されるものには60トラックのオーディオが含まれていますが、私たちが手を加えると最終的に合計600~900トラックになることもあります。ここが楽しいところです。
  • 音楽の追加:通常は仮の音楽トラックで作業を行うため、ほとんどの場合、スコアは最終ミックス前にサウンドトラックに最後に追加する要素となります。
  • 最終承認と成果物のアウトプット:プロダクションプロセスを通じて、クライアントにファイルを送って絶えず最新情報を伝えます。オーディオミックスを映像に埋め込んで投稿できるウェブベースのビデオ・コラボレーション・フィードバック・ウェブサイトを使用しており、クライアントがサウンドをステレオで試聴したり、タイムコード付きのコメントを共有したりすることができます。

完成に近い仕上がりと感じたら、クライアントをスタジオに招いてミックスを試聴します。その後、必要なフォーマットに従って最終出力を作成します。

 

あなたは20年前から映画業界に関わっていますが、業界は変わりましたか?

Netflix、Amazon、Hulu、ウェブストリーミングにより、配信の世界は確実に変わりました。コンテンツの販路も非常に増えました。現在は短編映画、ウェブシリーズ、長編映画を数多く手がけていますが、10年前は参入の余地がなかったようなプロジェクトばかりです。

その多くは機器のコストが大きく下がったことと関係があります。DSLR革命が起きた結果、Canon Mark II DSLRのようなカメラを手に映画の撮影に出かけることが可能になりました。映像品質も素晴らしく、実際に映画並みのクオリティーが実現しました。

 

未来のフォーリーアーティストに向けて何か一言お願いします。

私たちには仕事をフォーリーだけに限る余裕はありません。なので、柔軟性が重要です。スタッフ全員が何足ものわらじを履かなければなりませんが、最終目標はできる限りユニークで面白いサウンドを生み出すことです。

 

フォーリーの素晴らしいところとは何でしょうか?

フォーリーはパフォーマンスアートです。私にとっては、フォーリーとは映画のサウンドをリアルにするものを見つけ、サウンドをそのシーンの一部として融合することに尽きます。観客に気付かれるフォーリーは失敗です。たとえ苦労して生み出したとしても、サウンドが映像と完全に調和しなければ話になりません。