ワイヤレス完全理解マニュアル: Vol.1 電波とスペクトラム

ワイヤレス完全理解マニュアル: Vol.1 電波とスペクトラム

Hayden Leiper | 2018年2月7日

今、世界各国の政府がワイヤレスマイクロホンやパーソナルモニターに利用可能なスペクトラムの競売を段階的に進めています。そうした中、ワイヤレスマイクロホンやパーソナルモニターシステムの設計と設定について完全に理解することが、音響エンジニアにとってますます重要になっています。そこで、Entertainment Technology Asia の協力の下、RFエンジニアリング理論とベストプラクティスについて、全12回の連載で解説します。目的は、読者にワイヤレスシステムの正しい設定と運用に必要な知識を身に付けてもらうことです。

この連載で取り上げる主なトピックは、電波伝搬、アンテナのタイプと設置ガイドライン、信号の分配方法、伝送線路理論、ノイズ源とノイズ低減手法、パーソナルモニターシステム用のミキシング、アナログワイヤレスシステムとデジタルワイヤレスシステムの比較、スペクトラム管理と周波数コーディネーションなどです。第1回となる今回はまず、電磁波と電磁スペクトラムとは実際のところ何なのか、なぜワイヤレス伝送の際に信号を変調する必要があるのかを考えます。

 
電磁波

電磁波は、電場と磁場という2つの振動場からなります。電磁波には大きく2つの特徴があります。1つは、電場波形と磁場波形の間に位相偏移がないことです。もう1つは、電場および磁場の偏波と伝搬方向はすべて直交する、つまり互いに90°の関係にあるということです。さらに、電磁波は伝搬の際に媒体を必要としません。音波とは違い、電磁波は真空空間で最も伝搬効率が高くなります。

 

 
電磁スペクトラム

電磁スペクトラムとは、簡単に言えば電磁波が伝搬される周波数帯域のことです。電磁スペクトラムについて考えるときに興味深い点の1つは、周波数帯域ごとに対応する信号のタイプが異なり、しかもそれぞれ目的がまったく異なる場合が多いということです。例えば、AMラジオは通常550 kHz~1640 kHzで放送されますが、FMラジオは88 MHz~108 MHzの周波数で運用されるのが一般的です。ちなみに、可視光線は429 THz~750 THzの電磁放射線にすぎません。人間の目はこの周波数帯域の電磁放射線に敏感であるため、光や色を知覚することができます。また、赤外領域の可視光線のすぐ下の周波数帯域にも敏感で、こちらは熱として知覚されます。

 

ワイヤレスマイクロホンやパーソナルモニターに最もよく使用される周波数帯域は、450 MHz~698 MHzのUHF帯、1.9 GHzのDECT帯、および2.4 GHz帯です。ただし、その帯域内の合法的に利用可能な部分は、地域によって制限されている場合があります。そのほか国によってはにも、VHFまたはUHF帯の一部(902 MHz~928 MHzなど)が利用可能な場合もありますが、これらの周波数も合法運用が可能かどうかは地域によって異なります。

各帯域における運用には、それぞれ固有の問題があります。450 MHz~698 MHzの帯域は、一般にチャンネル数が多いシステムや約30 m以上の運用距離を必要とするシステムに向いています。問題は、この帯域が通常は陸上移動無線、公共安全無線、テレビ放送にも利用され、その送信出力がワイヤレスマイクロホンやパーソナルモニターシステムの送信出力をはるかに超えていることです。そのため、ワイヤレスマイクロホンやパーソナルモニターシステムは、これらの既存サービスを回避するようにコーディネーションしなければなりませんが、利用可能なスペクトラムが限られている場所では運用が困難な場合があります。

近年、2.4 GHz帯がワイヤレスマイクロホン用として注目を集めています。この帯域の潜在的な利点として、アンテナの小型化が可能、干渉の原因となる高出力の送信機がほかにない、世界のほとんどの地域で免許不要で利用可能、帯域幅/変調方式に関する法的な制約がないといった点が挙げられます。しかし、困ったことに、それらの利点ゆえにISM(産業・科学・医療)用途のほか、BluetoothやWi-Fiなどのトラフィックですでにかなり混雑しています。額面通り表面的に受け取ると、2.4 GHz帯は450 MHz~698 MHzの帯域に代わる優れた選択肢のように思われます。確かに、特定の用途ではその通りですが、450 MHz~698 MHzはほとんどの国において帯域ブロックが最も連続する帯域です。特殊な変調方式を使用すれば2.4 GHz帯でも干渉のリスクをある程度抑えられるものの、450 MHz~698 MHzの帯域がチャンネル数の多いシステムに最も適していることに変わりありません。

以上、ワイヤレスマイクロホンやパーソナルモニターの運用に一般的に使用される周波数帯域の基礎知識について説明しました。ほとんどの音響エンジニアが最初に疑問を抱くことは、なぜ音声信号をワイヤレス伝送する際に高周波RF信号に変換する必要があるのかということです。それには、等しく重要な理由が2つあります。1つは、音声信号をそのままの周波数(つまり20 Hz~20 kHz)で伝送する場合、効率的に伝搬するには数マイルの長さのアンテナが必要になるため、実質的に不可能だからです。もう1つは、たとえアンテナサイズが制約要因でなかったとしても、20 Hz~20 kHzで伝送された電波は干渉によって損なわれてしまうからです。それに対し、ワイヤレス伝送に高周波搬送波を使用すると、アンテナの小型化と干渉回避が可能になります。

 
変調とは何か

「変調」とは、効率的なワイヤレス伝送のためにベースバンド情報を高周波信号に重畳(ちょうじょう)する処理を表す用語です。例えばパーソナルモニターシステムの場合、送信機は入力された音声信号で高周波搬送波を変調し、その変調信号をアンテナから電磁波として放射します。ボディーパック型受信機では逆の処理が行われます。つまり、高周波電磁波は受信アンテナによって検出され、元の音声信号に復調されます。利用可能な変調方式は、アナログ、デジタル共に数多くあります。このシリーズでは各変調方式の詳しい解説は割愛し、それぞれの長所と短所を簡単に説明する予定です。

次回は電磁波についてさらに深く掘り下げ、「波長」と「偏波」という用語について解説します。また、伝搬損失について学ぶほか、さまざまな障害物が電波伝搬に与える影響についても考えます。

 

Hayden Leiper

プロフェッショナルオーディオ業界で15年の経験を持つ電気音響エンジニア。Shure UKでアプリケーションエンジニア、シルク・ドゥ・ソレイユでシニアオーディオ/ビデオ/通信エンジニア、さらに契約エンジニアとしてAVデザイン&コミッショニングエンジニアおよびRFエンジニアを歴任し、現在はShure Asia Limitedに技術コンサルタントとして勤務しています。