クリティカルリスニング: 耳の訓練方法

Davida Rochman | 2013年3月2日

コントリビューター:マーク・ガリソン、マイケル・ホワイト(レコーディングエンジニア)

「自分の耳を信じなさい。」「それがあなたにとって良い音なのです。」これらのフレーズは、マイクロホンの選択や配置、そしてミキシングに関するどんな記事にも書かれています(この記事でも述べられています)。しかし、あなたの耳に頼ってバランスの良いプロフェッショナルなサウンドミックスの基本的特性を聴き取るためには、まずあなたの耳を訓練する必要があります。「リスニング- 聴くこと」と「ヒアリング- 聞こえること」は違います。

「テレキャスター」と「レスポール」の違いを聴き取ることができますか? 「ヴォックス・コンチネンタル」と「ノード・エレクトロ」を聴き分けることができますか?トレモロとビブラートの違いは? 経験豊かなプロでも、そして初心者でも、厳密に聴き取る能力を高め、微妙な違いを聴き取れるようになるためのさまざまな手段があります。この記事が聴き取り能力を高めるための手助けとなれば幸いです。

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マイケル・ホワイトと学生たち

 

必要な機材: あなたの耳

簡単な定義から始めましょう。レコーディングエンジニア/プロデューサー兼インストラクターであるマイケル・ホワイト(Michael White)の協力を得ました。マイケルはホイットニー・ヒューストンのスタジオ(マイケルはホイットニーのチーフエンジニアを 15 年間務めました)の再設計からデヴィッド・バーン、ローリング・ストーンズなど、その他多数のアーティストのミキシングを手掛けてきました:

クリティカルリスニング(Critical Listening)は、元々エンジニアの視点から始まりました。音楽の物理的なディテール-周波数特性、ダイナミックレンジ、音色、イメージ、そして、楽器の混ざり具合などです。」

これらのことを分析的(Analytical)思考と対比してみましょう。これは、プロフェッショナルなミックスをする際の要素の 1 つです。

アナリティカルリスニング(Analytical listening)とはフィーリングと意味を捉える力です。音楽演奏の感情的な意図が反映された音を理解することが重要です。」

 

より良くミックスする方法

あなたの心を信頼して、音楽の意味を解読し、いくつかの基礎的条件に注力して、あなたの不リスニング力に自信をつける練習をします。このために、作家兼レコーディングエンジニアのカナダ出身のマーク・ガリソンにお手伝いいただきます。マークは、まずミックスの基本を分解して、クリティカルリスニングの能力を高めるための練習課題を提供します。

始める前に、良いミックスに必要な要素を確認しましょう。ミキシングを教える際には、マークは、「ミキシングエンジニアのハンドブック(The Mixing Engineer’s Handbook)」に記述されているボビー・オウシンスキー(Bobby Owsinski)の記述を引用します。

バランス
ミックスではすべての楽器のウエイトが適切ですか?パワーが強すぎるためにミックスの中で失われる楽器はありませんか?特定の楽器がその他の楽器よりも際立っていませんか?(最後の質問に対しては「はい」という回答が多いかもしれませんが、意図的に特定の楽器を際立たせることは構いませんが、間違って目立つようでは困ります。)

パノラマ
楽器はステレオフィールドのさまざまな位置にありますか(スピーカーの左側や右側)? 聴きたい音がその範囲内で鳴っていますか?

周波数レンジ
周波数はだいたい均等ですか?すべての周波数レンジで起こっていることがありますか?(特定の周波数レンジでの発生を意図的に少なくする場合があります。例えば、バイオリンコンチェルトでは、低音を強くすると、とんでもない音になります。この場合も意識的な決定でなければなりません。)

ディメンション (立体感)
特定の楽器の音がその他の楽器の音よりも近く聴こえたり遠く聴こえますか? ミックスに躍動感がありますか?

ダイナミクス (強弱)
時間の経過とともに曲が変化しますか? レコーディングでは音量を変化させる場合に「ダイナミクス」という用語をしばしば使用します。ただし、テンポ、拍子、キー、または長調/短調などの調性の動的変化も考慮する必要があります。

インタレスト
インタレストには 2 つの重要な側面があります。第 1 にフックです。ミックスに記憶に残るものがありますか? これは旋律のフックかもしれません。または、音色が記憶に残るような場合もあります。(Cherの「Do You Believe」またはSmashmouthの「Walking On The Sun」など)

2 番めに、これは熟考されることが少ないのですが「曲を通じで聴く人を引き付けるものは何か?」ということです。リード楽器の演奏が終わった時に、次にとって代わる曲の焦点は何でしょう? 私はこれを説明する際、テレビショーや演劇と比較します。登場人物が舞台を離れたら観衆の関心を引き止めるために、その他の登場人物が直ぐに舞台に登場しなければなりません。テレビショーでは会話とアクションの間隔が長すぎると、誰もが飽きてチャンネルを変えることになります。音楽も同じです。

お分かりいただけましたか?

 

ご自宅でお試しください:クリティカルリスニングの練習

良いエンジニア・プロデューサー、またはアーティストになるには、音楽作品とエンジニアリングを勉強して耳を訓練することが重要である、ということに異論がある人は少ないでしょう。マイケルは次のように語ります。「ほとんどの人は音楽を沢山聴けば自然に耳を訓練できます。多くの人は深く掘り下げて勉強しませんが、必要なことなのです。オーディオを理解するための耳の訓練には、音楽作品の聴き方や何を求めて聴くか、ということが含まれます。これが、自分の音楽でより良い成果を達成するための最も役に立つ方法です。」

次は、マークが学生向けに行う役立つ練習法です。

必要なもの:

  • 高品質のイヤホンまたはヘッドホン
  • ビートルズの「アビーロード」に収録されている「サン・キング(Sun King)」

 

誰もが知っている曲で始めましょう。ビートルズの「サン・キング」です。

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プロデューサー、ジョージ・マーティン(George Marting)と「アビーロード」サウンドエンジニア、ジェフ・エメリック(Geoff Emerick)

レコーディング背景: 「ビートルズバイブル(The Beatles Bible)」より抜粋。
「ビートルズは 1969 年 7 月 24 日に”サン・キング/ミーン・ミスター・マスタード”の録音を開始し、ベーシックトラックの 35 のテイクをテープに録音しました。レノンがリズムギターとガイドボーカル、ポールがベース、ハリソンはリードギター、リンゴはドラムを担当。翌日、グループはボーカル、ピアノ、オルガンをオーバーダビングしました。オルガンはジョージ・マーティンが演奏しました。5 日後に 2 つのソングを完成して、さらに、ボーカル、ピアノ、オルガン、パーカションを追加しました。」(プロデューサーは勿論、サー・ジョージ・マーティン、そして、ハウスサウンドエンジニアはジェフ・エメリックとフィル・マクドナルドでした。)

マークが聴いている音です:

バランス: キックとベース、さらに 2 本のギターが際立っていることが分かります。曲の後半では、ボーカルが大きくなり際立っていますが、その他の楽器の音はいっさいかき消されていません。

パノラマ: ハードなパンニングから楽器の移動まで、このミックスにはステレオフィールドの素晴らしい利点が盛り込まれています。ボーカルはあらゆる箇所に入ってきます。1 つのボーカルだけではありません。

周波数レンジ: 各楽器にはそれぞれの位置があります。楽器が相互に妨げになることはありません。厚い低音と輝くような高音です。

ディメンション: 通常の方法とは逆に、ベースとキックを前面に持ってきました。ギターと鍵盤楽器はずっと後ろです。ボーカルが入っても、ギターと鍵盤楽器は後ろに聴こえます。

ダイナミクス: 繊細に始まり、ボーカルが入ると大きくなります。

インタレスト: 始めに楽器同士の絡みがあなたを捉えて、中心で入るボーカルへ真っ直ぐに引き込みます。

「習うより慣れよ」とも言われます。耳の訓練を重ねるほどに、違いがわかってきます。

 

聞くことができなければ聴き取ることもできません

誰もが、聴力を失ったことがある種の勲功バッジとなっている音楽家を知っています。高い音圧レベル(SPL)を繰り返し聴いたり、事故で高い音圧レベルにさらされると(爆発の場合など)、騒音性難聴(NIHL)を患います。毎晩ステージモニターの前に立ち続けたり、iPodの音量を最大にしたり、耳が破裂するようなコンサート会場で何時間も過ごすと、聴覚を痛めることがあります。

デシベルの高い騒音や音楽の中にわずか 15 分間さらされただけで、永久的な難聴を引き起こすことがあります。「永久的な」難聴です。調査によれば、ロックミュージシャンの 30% が測定可能な難聴を患っていることが分かっています。クラシック音楽の演奏家は更に悪く、最大 52% が聴覚障害を経験したことがあります。

でもここでよいお知らせが。難聴は防止できます。次の事項に注意して聴覚を保護してください。

  • 聴覚の問題と潜在的な危険を理解してください。
  • 休憩をとって耳を休めてください。
  • 常に低い音量レベルで聴いてください。
  • 音量の大きい環境で過ごす時間量を制限してください。
  • 大きい音量を取り扱う際には聴覚保護具を着用してください。演奏する場合、または、音量の大きいコンサートホールでは、ミュージシャン向けの耳栓を着用してください。
  • ご自身がいる環境内の騒音レベルに注意してください。
  • 自分と音源の間の距離を広くしてください。つまり、音源から角度のある位置に立ち、音源の前には立たないでください。
  • 自分の耳の状態を確認して、聴覚に変化がないか注意してください。
  • 聴覚専門家の診断を受けてください。

 

“One for the Money, Two for the Show – お金のため、ショーのため”

良い耳で聴き取りの訓練を重ねれば(マムフォード・アンド・サンズやモス・デフ、あるいは、ご自分の録音を分解して実験してください)、クリティカルリスニングに必要なすべての装置と能力が揃います。定期的に訓練していると、自分では気付かない間に自然なプロセスになり、あなたのミックスが改善されて創造性が向上します。

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マーク・ガリソン(MARK GARRISON)

マークは The Encyclopedia of Home Recording の著者で、カナダのブリティッシュコロンビア出身のレコーディングエンジニアでありさまざまな楽器の奏者です。過去 10 年間、マークは、学校、ワークショップ、記事などでレコーディングを教えてきました。また、 AudioTUTS+ にも執筆しています。スタジオのツールと技術を十二分に理解することで、より良いレコーディングを生み出す方法を追求しています。

 

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マイケル・ホワイト(MICHAEL WHITE)

マイケルはロサンゼルスを拠点とするレコーディングエンジニア兼プロデューサーであり、レコーディング、ブロードキャスト、映画業界向けのミキシング、マスタリング、トラッキング、編集を取り扱ってきました。マイケルのキャリアはニューヨーク市の伝説的なエレクトリック・レディ・スタジオで始まりました。これまで、35 枚を超えるゴールドレコードおよびプラチナレコードの製作に携わってきました。マイケルは独立プロデューサーとして活動しています。マイケルのオーディオ知識については彼のウェブサイトおよびオンライン・ミュージック・プロダクション・スクールをご覧ください。

Davida Rochman

1979 年よりShureに入社した Davida Rochmanはスピーチコミュニケーションの学位を取得しており、マイクに向かって喋るのではなくマイクのマーケティングを行うという大学卒業後初の仕 事が、そのまま生涯のキャリアとなるとは夢にも思っていなかったそう。現在、Davidaはコミュニケーションマネージャーとして、広報からソーシャルメ ディア、コンテンツ開発、スポンサーシップまで様々な活動を担当しています。