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Shure 特別インタビュー

山下正太郎氏(コクヨ株式会社 クリエイティブセンター主幹研究員/WORKSIGHT編集長)

“オフィス設計はアクティビティ・ベースド・ワーキング時代へ、音で深まる新コミュニケーション”

文房具/オフィス家具/事務機器を製造・販売する世界的企業、コクヨ。同社は90 年代に、社員が働く場所を自由に選ぶことができる“フリーアドレス”を導入するなど、多様な働き方をいち早く実践してきた企業としても知られています。また近未来の働き方・学び方を研究/提案する社内組織、『WORKSIGHT LAB.( ワークサイトラボ/現ワークスタイル研究所)』『クリエイティブセンター』、を設立。並行して『WORKSIGHT』というオウンドメディア(https://www.worksight.jp/)も立ち上げ、これからの時代のワークスタイルを具体的に提案しています。働き方についての深い知見を持つ主幹研究員の山下正太郎氏に、日本の労働環境が抱える課題や、人と人とがコミュニケーションを取る際の音の重要性について、お話を伺いました。

「働く環境」をつくる際、広い視野で考える

山下さんは主幹研究員として、これからの時代の働き方や労働環境のあり方について、日々リサーチされているそうですね。
はい。私が在籍しているクリエイティブセンターはR&Dの部署で、個人や企業の働き方や働く環境について新しい提案をしています。その中で私は働き方のスタイルがどのように変化し、今後どのような方向に進んでいくのかをリサーチしています。
『WORKSIGHT』という雑誌/Web メディアの編集長も務められていますが、これはどのような媒体なのでしょうか。
日本では働く環境をつくる際、アイディアの幅が少し狭いのではないか?と思っています。同じ会社に長く勤める方も多く、自分の労働環境が常識になってしまう。また、他のオフィスを参考にする場合も、同じような国内企業ばかりをベンチマークしているので、その範囲内に考えを限定してしまいがちです。そういった狭い視野を少しでも広げようという目的で2011年に創刊したのが『WORKSIGHT』なんです。Web だけでなく、紙媒体としても半年に1 冊のペースで刊行し、現在13 号まで刊行しました。内容としては海外の先進企業のオフィス事例紹介が中心で、第11 号以降は毎号特定の都市にフォーカスしています。これまでニューヨーク、ロンドン、ベルリンといった街を取り上げ、今度出る最新号では台北を特集する予定です。また、Web の方では事例に加えて有識者のインタビューなども掲載しています。読者は主に2 つの層に分かれています。1 つは大企業の中でオフィスや働き方について考えている方たちですね。ほとんどが人事や総務、経営推進部といった部署に在籍されています。もう1 つは、オフィスをつくる側の設計事務所やIT ベンダーといったサプライヤー。そういった方たちの参考になる媒体を目指して編集しています。
「WORKSIGHT」の由来は、
「WORK(働く)」と
「SIGHT(見方、視界)」の造語で、
同音で「SITE(現場、場所)」という意味も
出版社ではないコクヨさんが、そのような媒体を制作しているのがおもしろいですね。
『WORKSIGHT』によって日本の働く環境に対する意識が高まっていけば、それは文具やオフィス家具、事務機器を製造しているコクヨにとってもプラスになります。それに情報収集という点でもメリットは大きいです。出版社でもないのに、別の会社に“オフィスを見せてください”とお願いしたら、“え、何で?”ってことになりますが、メディアの取材だったら見せていただける。いろいろなオフィスを見て回ることは、私たちにとってもとても勉強になるんです。

“アクティビティ・ベースド・ワーキング”の時代だからこそ、人と人とのコミュニケーションが重要

政府は一昨年から『働き方改革』を推進していますが、日本の労働環境が抱えている課題について、山下さんの認識をお聞かせいただけますか。
大きく2 つの課題があると思っています。1 つは人口減。人口が減るだけでなく、15〜65 歳の生産年齢人口の割合が急速に小さくなっていく。そうした中で、現在の競争力をいかに維持していくかというのは非常に大きな課題です。もう1 つはイノベーション。徐々に景気は上向いてはいますが、長らく横ばいの経済成長率を引き上げるためのイノベーションをどのように起こすかというのも重要なテーマです。人口減に対応するための人材のフレキシブルな活用と、経済成長を牽引するようなイノベーションをいかにして起こすか。この2 つが課題だと思っています。
こういう問題に直面したときに思うのは、海外の国はどうなんだろうということです。同じような問題は、きっと他の国も抱えていると思いますが……。
そうですね。ただ、国によって状況は異なるので、参考になる国と参考になりづらい国があります。例えばすぐに視察先の候補に挙がりますが、日本にとってアメリカという国は参考になりづらい。アメリカは出生率が高いですし、国外からも若い人材がどんどんやってきます。日本の『働き方改革』で問題になっているようなことが、顕在化していないんです。もちろん、イノベーションを起こす優秀な人材をどのように集めるかという点では参考になるのですが、限られた労働力をいかに活用していくかという点では、“アクティビティ・ベースド・ワーキング”の先進国であるオランダやオーストラリアに軍配が上がります。働く時間と場所をワーカー自身が選択できる制度や働き方を積極的に整備してきたのがこの2 つの国なんです。
コクヨさんが『働き方改革』で取り組まれていることというと?
弊社では、ワーカーが働く場所を自由に選ぶことができる“フリーアドレス”を1995 年から実施しています。現在に至るまで、オフィスにほとんどの社員が自席をもたずに働いています。当時はアクティビティ・ベースド・ワーキングという言葉は普及していませんでしたが、実態としてはそうなっていたと思います。私も入社して10年以上経ちますが、自分の席というのを一度も持ったことがありません。また最近では、サテライトオフィスも積極的に活用しています。それは働く場所を柔軟にするだけでなく、外部の人たちと接点を持つという意味でもメリットがあります。
“アクティビティ・ベースド・ワーキング”は、個々の生産性は向上するものの、人と人とのコミュニケーションが希薄になるという話も聞きます。
おっしゃるとおりで、“アクティビティ・ベースド・ワーキング”は短期的には非常に生産性が上がる働き方なんですが、長期的にはロイヤリティーが低下しやすいという問題もあります。オフィスに行かずにチームとの会話が減ると、どうしても帰属意識が低下してしまいます。ですので、強制的にフェイス・トゥ・フェイスの時間を設けている企業が多いですね。上司と部下が1〜2 週間に一度はワン・オン・ワンと呼ばれる一対一で話す機会を設けたり。

海外の事例を見ると、目的に対して手段のバリエーションは様々という印象を受けます。例えば、イノベーションを起こそうというときは、人が同じ場所に集まって仕事をすることが重要になってくる。そうなると、昔は在宅勤務を推進していたような企業でも、リモートワークは禁止しようという動きになります。一方で、先ほど挙げたオランダやオーストラリアといった国では柔軟性のある働き方を推進しているので、オフィスにこないほどボーナスが出る企業もあります。
在宅勤務を推進している企業では、人と人との接点つくるサテライトオフィスがとても重要な役割を果たしそうですね。
一対一のコミュニケーションであれば、スマートフォンでも大丈夫なんですが、多対多のコミュニケーションでは実際に会って話せる拠点が必要になります。直接会って話すことで、とても多くの情報が得られる。全社員リモートワークでオフィスを持たない企業でも、年に一度は社員が集まってコミュニケーションを取っていますね。“アクティビティ・ベースド・ワーキング”の時代は、ソーシャルなスペースが欠かせません。最近のオフィスの事例を見ても、PC を広げて作業するようなスペースは減り、キッチンやカフェのスペースが増えているんです。ただ、サテライトオフィスは立地が良くないとあまり意味がありません。“アクティビティ・ベースド・ワーキング”によって、オフィスにかかるコストを劇的に下げることができるんですが、かといってオフィスを郊外につくると誰も寄り付かないハコになってしまう。立地が良ければ、社員は10 分でも立ち寄りますから。

シンプルで使いやすい機材は、人間の行動を“ナッジ”してくれる

人と人とがコミュニケーションを取る上で、“音”というのは重要ですか。
とても重要だと思います。たまに初対面の人と遠隔でミーティングすることがありますが、そこで気になるのが、自分が見えて聴こえているものが、相手もきちんと同じように伝わっているのかということ。どこにも確証が無いので、使っているシステムを信じるしかないんです。遠隔のミーティングでは、ちょっとした雑音も凄く気になったりしますし、たとえ相手の声が聴き取りにくくても、初対面の人に“え? いま何て言いましたか?”と尋ねるのは失礼ですし……。音というのは人間関係に影響を及ぼす繊細な要素です。
遠隔会議では、映像が途切れても会議は続けられますが、音が途切れてしまったら会議は続けられませんからね。
オフィスで集中できる環境をつくる上でも音は重要です。欧米では昔からそうなんですが、最近は日本のオフィスでも音を出していい場所と、出していけない場所をきっちり分ける傾向にありますね。電話をかけるにはボックスに入らなければならなかったりとか。大きな声を出さなくても自然にコミュニケーションが取れる環境というのは、オフィスをつくる際に考えなければならないことです。
しかし一方で、自分で環境音を遮断できないことが、逆にオフィスの魅力でもあったりするんです。オフィスはうるさいかもしれませんが、周囲の人の会話から意外な情報が入ってきたりとか、喋り声でしばらく会っていない人の存在に気付いたりとか。情報収集という観点で見ると、雑音の中に身を置くことも重要だったりします(笑)。そういうところに仕事のヒントが隠れていることがありますからね。つまりすべてを無音すれば良いというのではなく適度にコントロールできる環境が重要になるわけです。
千駄ヶ谷にあるライフスタイルショップ&カフェ
「Think of Things」
(『TOT STUDIO』)はこの2 階)
Shure については、どのようなイメージをお持ちですか。
ここ(注:取材が行われたコクヨが運営するイベントスペース『TOT STUDIO』)ではShure のワイヤレスマイクを使用していますし、個人的にもイヤホンなども愛用していますので、日頃お世話になっているメーカーというイメージですね。先日もシーリングマイクMXA910を体験させてもらったのですが、本当に自然でスムーズな音で、ストレスの無さがとても印象に残りました。
最近の職場づくりでは、“ナッジ”という概念があるんです。人間が何か行動を起こすときに、ちょっと背中を押してあげることで、良い方向に導いてあげるという概念なんですが、“アクティビティ・ベースド・ワーキング”では周りに背中を押してくれる人がいないわけです。そんな環境下では、誰も遠隔でのミーティングなんてやりたがらない。会議システムの設定は面倒ですし、トラブルが発生したときにサポートしてくれる人がいないわけですからね。でも、Shure の会議システムはとてもシンプル。一度セッティングしてしまえば、あとは面倒な操作無しに使うことができるんです。まさに、人を“ナッジする”システムだなと感じますね。現代のオフィスは、マニュアル要らずのナッジな環境をいかにつくるかというのがテーマなので、新しいニーズに合っているシステムだと思います。
本日はお忙しい中、ありがとうございました。

取材日:2018年9月6日

山下正太郎(やました・しょうたろう)

クリエイティブセンター主幹研究員/WORKSIGHT 編集長/。コクヨ株式会社に入社後、オフィスデザイナーとしてキャリアをスタートさせる。その後、戦略的ワークスタイル実現のためのコンセプトワークやチェンジマネジメントなどのコンサルティング業務に従事し、手がけた複数の企業が「日経ニューオフィス賞」を受賞。2011年にグローバルで成長する企業の働き方とオフィス環境を解いたメディア『WORKSIGHT(ワークサイト)』を創刊し、研究的観点からもワークプレイスのあり方を模索している。2016-2017年ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA:英国王立芸術学院) ヘレン・ハムリン・センター・フォー・デザインにて客員研究員を兼任。